第33話 調査と合流と決断 3
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それはそうだろう、娘のガラケーから着信だと思ってでたら、不倫相手の女がでたのだから、飯田安奈としては嬉しい、というか、面白かったハズだ。
「ああ! 私が小学生の時に、ここにお父さんへ忘れ物を届けに来たのね。いたよ、あのひと」
「え!? 今、まさに今、思い出したの?」
「そうだけど」
「本来ここには何をしに来たんだい?」
「くればなんとかなると思ったのかなー!?」
洋二としては藍がそのインフォメーションの係に飯田安奈を聞き出すために来たのだと思っていたのだ。
―あまりに場当たり過ぎだろう!
洋二がここに来たのは、藍が既に飯田安奈がここのインフォメーションだったことを突き止めた・思い出したと判断したためだった。
藍が自宅の最寄り駅の自動改札機を通過し、一度乗り換えて、ここの最寄り駅で降りたことは洋二には筒抜けだった。
モバイル定期券の履歴とGPSから脳内のAI-クレゼンザを通じて知ることが可能なのだ。
確かにクラスメイトの女の子を追跡するようなストーキングまがいのことはしたくないが、飯田安奈が未だ狙っている可能性が高いので、クレゼンザには藍が妙な動き、今回の場合のように飯田安奈の元勤め先に向かうようなこと、があれば教えるように指示をしておいた。
但し、洋二の名誉のために明記するが、視覚情報、つまりのぞきめいたことはしていない。
「ちなみに、鮎川くんはどうして、私があのビルに来ると判ったの?」
―来た、この質問は来るだろうな。
「ちょいといいかな」
渋沢栄一像の近くに、この辺りでは珍しい、人気のない、新築の橋があったことを洋二は思い出した。
藍が訝るような目で見るが、その表情は空からやってきた黒色のドローンにより驚きの表情となった。
「鮎川くん、こういうの持っているんだ」
ネット内では無敵の能力を持つようになった洋二はネット貨幣やネットバンキングのマテリアルを思うように使える。
だが所詮、素人の洋二、それでどれだけの痕跡をつけているのかが判らないし、その痕跡を消すまでの複雑な手段も判らない。
だがネット内にはチャージサービスやポイント付与が無数にある。
それを脳内AI-クレゼンザが効率よく処理してくれて、企業や政府に目を付けられないくらいの集金システム構築を指示し、現在、それでも億単位の資産が洋二の脳内にはある。
ドローンはそれで購入したもので、洋二はコントローラーを必要とせず、脳波でコントロールができ、ドローンのレンズは洋二の複製生体の右目と完全に連動している。
「このドローンの練習をしていたら、麻井さんを見つけたんだ。飯田安奈の件は月曜に学校来た時に話す予定だったけど、何か気づいて押しかけたのかと思ったら、気になって、つけてきたんだ。悪いことしたかな」
我ながら、稚拙な言い訳だと思ったが、藍はまったく疑わず「その飯田安奈って人のこと、どこまで知っているの?」と尋ねてきた。
そう、藍にとっては洋二と今日出会った偶然より、今いちばんの危機である飯田安奈の方が問題なのだ。
「判ったよ。確かに学校で話す話じゃないよね。ゆっくり話すことにしよう」
洋二には既に全部判っていたのだ。
飯田安奈は麻井延彦と7年にも及ぶ不倫関係にあり、退職してからは派遣バイトで食い繋いでいたため、昨年の退職から、収入は落ちる一方であった。
最近の延彦の相手は女子大生のアルバイトであり、飯田安奈との関係は既に終わって、久しい。
そのように忘れられたからなのか、急に藍の生活を監視し、先週木曜の強行に及んだ。
あの後、トラックからも咎められずに脱出し、隣県の自宅に戻った。
洋二は既に住まいもリークしている。
こちらは飯田安奈の自宅から最寄り駅から続く防犯カメラに、飯田安奈に該当する像が映り込んだら、クレゼンザが認識して、洋二の脳内に映像を送るように指示している。
洋二としてもこの女性だけは許すワケにはいかないのだ。
なにより、自分の身体を不具にしてくれた張本人なのだから。
しかし、それで単純に仕返しをしては、元来藍のためにやったのだし、藍はケガはしかったが、充分PTSD案件、被害者ではあろう、彼女の判断も聞かなければいけないと洋二は考えていた。
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