第34話 調査と合流と決断 4



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洋二としては勝手知ったる神田方面、御茶ノ水や神保町に行きたかったのだが、女の子連れ、ここから歩くには少し遠い。

東京駅界隈はラーメン店が熱いのだが、これからする話を考えると、一切ゆっくりできない行列のできるラーメン屋は行くのをはばかられた。

それに洋二は体格のいい男子、魚介豚骨のつけ麵やインスパイア二郎の店に連れて行っては、小柄な女子を連れて行くにはよろしくない。

日曜だからイタリーやフレンチのランチタイムは休みか割高だし、なにより、高級そうな店に連れて行くと下心があると思われるのはイヤだ。

かといって、そこいらへんの喫茶店や定食屋のランチを食べるのには洋二のプライドは高過ぎた。

そこで、ここいらへんに最近、古い映画見せるアーカイブに来た時に立ち寄ったタイ料理屋を思い出した。

―女子はアジアンな食べ物好きだろうから、大丈夫だろう。

洋二はそう思っていたのだが、外食は家族と行くことの方が圧倒的に多かった藍はメニューの選択から困っていた。

「ごめん、マックやモスの方がよかったよね?」

「いやじゃないんだけど、何を頼むか判らなくて」

「麻井さんはカレー好き?」

「好き!」

「ココナッツは?」

「好きだけど」

「じゃあ、グリーンカレーがいいと思うよ」

「緑だし、食べたことないし、好き嫌いが凄く判れるパクチーとかいうの入ってるんじゃないのかい?」

「僕はこのガバオというのをオーダーする。ご飯の上に辛いひき肉と目玉焼きが乗っている。味の想像し易いだろう? グリーンカレーがダメだったら、こっちと替えよう」

「最初からガバオを勧めないのは何故なんだ?」

「辛いのが苦手かもしれないからかな。最初はタイカレーの方がいいよ、タイ料理は」

洋二は店員にそのように注文し、サイドメニューとしてガイヤーンという鶏料理も頼んだ。

オーダーの後、少しの間が生まれるも洋二は切り出す。

つまり先程、洋二が心の中で再現していた飯田安奈と藍の父親の件を話したのだが、さすがに目の前の女の子にあなたの父親が浮気していると言い辛いので、洋二も言葉を選んだ。

ただ何故に洋二がこの短期間で二人の肉体関係のことまで迫れたのかの説明は虚言癖の言い訳めいた謂いになってしまった。

曰く、「僕はスーパーハッカーだから」とか「親戚が興信所を運営している」とか。

その点はさすがに藍も怪訝に思ったのだが、二人で見た飯田安奈の顔を写メで見せられ、去年の父親名義のカードの明細書にラブホテルの名前があったり見せられると、その方法や手段の真偽はどうでもよくなっていた。

「話はデリケートだ。狙われたのはきみだから、麻井さんの意見が尊重される。家族も巻き込むことになるだろうから、考えた上での意見を聴きたい」

「そうなるだろうね。でもその前にわたしの話も聞いて。弟から聴いたんだよ」

藍は昭から聞いた谷口早苗の話をしようと思ったのだが、そこで注文の料理が恭しくきた。

「いただきます」と二人で揃えるように云ったが、未知の食べ物を前に藍の声の方が小さかった。

「あ! 鮎川くん! これ! 美味しいよ! 甘いよ! 辛いよ! 鶏肉美味しいよ! フシギな味だな!」

「だろう」

藍の一切お世辞のない弾んだ声は脳内にいる本体の洋二さえ笑顔にさせた。

「あ! これが口に合わなかったら、そっちのやつくれるとさっき言ったよね! ちょっと、食べていい!?」

「いいよ、どうせなら、黄身潰して食べた方がいい」

「あ! 甘辛く炒めたひき肉をご飯に乗せただけなのに、何でこれはこんなに美味しいんだ! しかも玉子がいい仕事をしている!」

「これもどうぞ、タイ版の鶏の唐揚げ、かな。ガイヤーン」

「あ! これも美味しい! タンドリーチキンと唐揚げが鶏料理の双璧だったのに、ここにコイツが乱入してきたよ! ほー、美味いもんだな、タイ料理」

「未だ食べられる?」

「実は今日、朝ごはん食べずに来たんだよね。父親と食卓囲むのイヤだから、友達と食べるからいい、って」

洋二は悪いことを尋ねたと思ったが、だったら、ここはご馳走しようと思って、当初の提案をした。

「パッタイ、っていう米紛の麺を使ったタイ版焼きそばがあるんだが、食べる?」

「想像つかないな! 是非お願いするよ!」

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