第11話 検索と実験と再会 1
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洋二が生まれたのは2005年。
もし異変があれば、なによりネットで検索する世代。
自分の身に降りかかった自体に近い事例、あの川や橋にまつわる都市伝説、潜在能力説、宇宙人のアブダクション説、チャクラ説、ファティマ第三の予言、ムー・アトランティス・レムリア、フリーメーソン・イルミナティ・300人委員会、サンジェルマン伯爵、グルジェフ、クロウリー、どれも違う。
この気になる感触のためにずっと引きこもりをするワケにもいかなかった。
今明らかにされている、現在も証明可能な異変は、あのジャンプ力と急な斜面を登れる脚力だけだ。
色々検証しなければならない。
両親には明日は金曜日だから、続けて、三日静養すると言ってある。
信夫と母親が示した、あの事件後の自分への、ファーストインプレッションは明らかにおかしい。
部屋に洋二がずっとこもっているのは、異変への動揺のそのネットでの調査のためと、そして両親がよそよそしいことも実は挙げられる。
異変の正体が何なのかを突き止めなければ、平穏な生活は送れない。
金曜朝、メールを交換していると信夫から「下校時行くわ」とレスがあった。
「うん、今日はヘンな感じしないよ」
「よかった。ホッとした」
その信夫の言葉にウソを感じた。
安心させるために言っている感じがした。
洋二はベットに入るとかの芝居はしないが、パジャマ姿で応対するくらいの演技はした。
「信夫、麻井さんは今日来た?」
「普通に元気だったよ」
「ふーん。もういい、何も言うな」
微笑で信夫は返した。
だが洋二にとって信夫はいいやつだ。
お見舞いに洋二が好きなガラナの缶を持ってきてくれた。
―オレの雰囲気がヘンだとか母さんは父さんに言っているハズだ。だからこの二日連続の登校拒否と医者にも行かないことを許してくれている。やれることは全部やらなきゃならない。
一日めの木曜、洋二は、母親をなだめると部屋で検索とその場でできることを試した。
母親は午後から出勤なのだったので、都合は良かった。
まず、能力としてアレがあるのか?が課題だった。
カッターナイフで左手の手の甲を、イヤだけど五ミリ程切ってみた。
俗に云う超回復能力があると思われるからで、そうでないとあのナイフによって死んでいたのだから。
しかし回復しない。
信夫が来た次の日の金曜も同様だった。
金曜は、午後から夜にかけて(両親が19時頃に帰宅するので、それまでに)、多摩川まで出かけ、人気のない堤防で、色々検証してみた。
跳躍力とクライミングはやはり可能だが、走行スピードや握力は普通のようだ。
水泳を試したいものだが、川で泳ぐのは憚られるし、プールではもし常人を超えた能力を発揮したらと考えると試しに泳ぐのはよしておいた方がいいだろうと考えた。
土曜は、洋二の家の最寄り駅は各駅停車の総武線しか止まらないので、吉祥寺から中央線に乗り換え、もっと人気のない場所を目指して行けるとこまで行ってみた。
まさに山奥という場所まで足を踏み入れたが、洋二には恐怖はなかった。
自分の能力への過信に洋二が初めて気づいたのはこの時だった。
それを認識できるくらいには、彼はまともな若者だった。
結果、斜面を下り降りたりすると、少し早く走れるような感じがするが、無意識でブレーキをかけているのが自分でも判った。
川と山でこの二日間色々試したが、木曜の朝から何も進展はなかった。
帰宅すると母親は既にいて、洋二に夕飯を振舞い始めた。
その時に初めて、洋二は今日、一食も口にしていないことに気づいた。
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