第116話 迫り来る影
アーシュラ
最後に休憩を
食事も歩きながら携行食である干し肉をかじる程度だった。
それでも若者たちはへこたれることなく、頑強なところを見せて進み続けている。
プリシラに
アーシュラはその様子を見ながら先頭を歩き続けている。
(全員、歩調は変わっていない。やはり選び抜かれた精鋭たちだけあって、基礎体力や体幹の強さは優れている)
アーシュラはこの任務の人選を知った時、ブリジットやボルドの
ダニアの未来の中心戦力となる若者たちを、厳しい任務を通じて成長させようと思ったのだろう。
その
この任務はあの夫妻の子供であるエミルを救うためのものだ。
あの2人にとってみれば愛する息子を助けられるかどうかの切羽詰まった状況だ。
若者をその任務で育てるなどと
(それでもこの若者たちを選んだということは、あの2人はこの娘たちならばこの任務に最適であり、エミルを助けるために最も確率の高い人選だと思ったということ……か)
アーシュラはブリジットらに託されたこの任務を成功させるためには、早めに彼女らの力を見極めなければならないと思った。
今のところまだ、ブリジットとボルドが彼女たちを選出した強い理由は見えてこない。
だからアーシュラは今、彼女自身が感じ取っているある危機を隊員たちに
(さて……誰が最初に気付くか)
夜は
夜の山は……人を飲み込む
☆☆☆☆☆☆
オリアーナは
そして
たくましい筋肉を誇る頑強な
普通の狼よりも体が大きく力も強いが、その体の重さゆえに疲労もたまりやすい。
バラモンは舌を出しながらハッハッと息を吐いている。
(そろそろ休憩したいな……)
オリアーナ自身はまだまだ体力が残っており歩き続けることに支障はないが、バラモンを少し休ませてあげたかった。
オリアーナは前を行くアーシュラの背中を見た。
そして彼女の言葉を思い返す。
【態度と言葉で自分の意思をハッキリと主張しなさい】
アーシュラはオリアーナにそう言った。
オリアーナは
(隊長。休憩させて下さい。隊長。休憩させて下さい。隊長……)
だが、いざそれを言葉にして発しようとすると口が
オリアーナはそんな自分自身に落胆して、バラモンに目を落とす。
すると……バラモンが二度三度と耳を動かして、それから立ち止まり、顔を上げた。
何かを探るようにバラモンはキョロキョロと首を
(バラモン?)
バラモンが何かを警戒していた。
オリアーナは歩みを止めてバラモンのすぐ
バラモンは周囲に目を向けながら鼻をヒクヒクとさせ、やがて
オリアーナに何かを伝えようとしている。
(何かが……近付いてくるんだ)
オリアーナは周りの者に目を向ける。
それにいち早く気付いて近寄ってきたのは、プリシラだった。
「オリアーナ。どうしたの?」
オリアーナはビクリとしてプリシラに目を向ける。
自分より6歳も年下のプリシラは、母親のブリジットに似ていつも堂々としていた。
その女王の娘としての太陽のような振る舞いがオリアーナは苦手で、彼女に声をかけられてもつい無視をしてしまったこともある。
悪気があったわけではない。
もともと人間への関心が薄いオリアーナだが、その時ばかりは自身の対人対応能力の低さに落ち込んだ。
ネルのように敵意ある相手の言動を無視するのは自衛手段として必要であるし、良心が痛むこともない。
だがプリシラは違った。
苦手な相手ではあるが、悪い人間ではないことはオリアーナも分かっている。
むしろ自分のような人付き合いの出来ない根暗な人間にも分け
そんなプリシラを無視してしまうことに自己嫌悪を感じるくせに、オリアーナはそんなことを
そうした自責の念もあって、オリアーナは今もプリシラの目をまっすぐ見つめることが出来なかった。
それでも今、この状況を伝えなければならないと思い、オリアーナは目を
「……何かが近付いてくる。この子が……警戒している」
それを聞いたプリシラはハッとして顔を上げ、周囲を
その様子を見たエリカら他の隊員たちが何事かと視線を向けてくる。
「何かが近付いてくるって……隊長!」
プリシラは緊迫した表情でアーシュラの指示を仰いだ。
だがアーシュラは事も無げに皆に命令を下す。
「周囲を警戒し、各自臨戦態勢を保ったまま進みなさい」
その命令に異を唱えたのはエステルだ。
「隊長! 恐れながら申し上げますが、このまま登り続けるのは
だから無茶な行軍だと言ったのだ。
エステルの顔にはその
だがアーシュラは首を横に振る。
「せっかくの進言ですが却下します。下ったところで敵があきらめるかどうか分かりませんので。それならば少し速度を落としてでも進みますよ」
そう言うとアーシュラは先頭を慎重な足取りで進んでいく。
エステルは
納得いかずとも従うほかなかった。
一行は周囲を警戒しつつ、先ほどまでよりも歩く速度を落としながら着実な足取りで山道を登っていく。
するとしばらく進んだところで、ネルが鼻をヒクヒクさせた。
「
その言葉にハリエットは首を傾げる。
「そうか? バラモンのニオイだろ?」
だがネルは首を横に振った。
「アタシは分かるんだよ。ここのところ山での
群れで狩りをする
共和国と公国の国境地帯の山々に生息する
「今の季節にこの地域に生息する
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