第115話 黒い繋がり
チェルシーの
そこはもう共和国領だった。
何も無い広野だが、部隊が姿を現すとそれを待ち受けていたように岩場の陰から数名の男たちが出て来た。
チェルシーは警戒の表情を見せるが、副官のシジマがそんな上官に説明する。
「協力者です。アリアドに到着する前に自分が手配をしておきました。話をしてきますので、
そう言うとシジマは男たちに近付いていった。
そして彼らと何かを話し合い、その手に金を握らせるとチェルシーの元に戻って来る。
「捕獲対象の居場所は
「たった2名ですって?」
「敢えて少人数にすることで情報
「そう。そこまでしても情報は
「はい。おそらく捕獲対象のいる村へ向かう道中には共和国側の見張りがいるはずです。目的地に近付くほどにこちらの動きが敵に
「
チェルシーの問いにシジマは
「こちらが近付けないなら、向こうから近付いて来てもらいましょう」
「どういうこと?」
「
そう言うとシジマは計画をチェルシーに理路整然と話して聞かせるのだった。
☆☆☆☆☆☆
「……眠れないの? ウェンディー」
共和国首都の自宅にいた頃はウェンディーも自室で1人で眠っていたが、このパストラ村に疎開してきてからというものの、心細さから兄妹は同じベッドで眠るようになっていた。
ヴァージルは知っている。
夜ごとにウェンディーが声を殺して泣いていることを。
両親と離れて見知らぬ土地にいることが
8歳のヴァージルとてそういう気持ちがあるのだから、6歳で甘えたがりのウェンディーなら
ヴァージルは妹の背中を優しく
これまで妹にかけてやれる言葉を尽くしてきた。
だが、それでは彼女の
泣く妹を前にヴァージルは無力感を覚える。
そして戦が一日でも早く終わり、両親の元へ帰れる日が来ることを願うしかなかった。
☆☆☆☆☆☆
「大丈夫ですか? とにかくこの薬を飲めば痛みは
そう言う若い薬売りに感謝して老夫婦は関節痛の痛み止めを受け取った。
「すまない。来週には実入りがあるから、その時に必ず代金は支払います」
その言葉に若い薬売りは笑顔で手を振った。
老人の多いパストラ村には定期的に薬売りが行商にやってくる。
もう10年近くこの村に通っていた馴染みの薬売りがいたが、その薬売りがいつもの時期に来ないため村人らが困っていたところ、数日前にやって来たのがこの新顔の若い薬売りだ。
見覚えのない若者の来訪に村人らは戸惑ったが、その若者が共和国発行の薬物取扱許可証を持っていることと、以前の薬売りから引き継いだという見慣れた行商馬車に乗っていたことから、その若い薬売りを村に招き入れた。
話を聞くと以前の薬売りが高齢によって商売が難しくなったので、その若者が仕事を受け継いだとのことだった。
若い薬売りは村人らに親切で、決して押し売りすることなく、若い割に薬の知識も豊富だったので、村人らはすぐに彼らを受け入れた。
「おおい! 薬売りさん。うちの婆さんが夕飯食っていけってよ。こないだの治療の御礼をしたいから、ぜひ寄っていってくれ」
夜道を歩く薬売りは村の農夫からそう声をかけられて、人の良い笑顔を浮かべる。
「ああ。すみません。お気遣い感謝します。ではお言葉に甘えさせていただきますよ。ちょっと荷物の整理をしたら向かいますので」
そう言うと薬売りは各種の薬剤を積んだ荷馬車に戻る。
一頭の老馬が引くその荷台には、数多くの薬や包帯などの医療用具が積まれていた。
その奥に隠された白い小包を薬売りは取り出す。
彼はそれを握り締めて
☆☆☆☆☆☆
パストラ村へ向かう街道沿いの林。
村からは遠く離れたその場所は、昼こそ街道を行き交う人々の姿があるが、この時間になると野盗や狼などの襲撃を恐れて、人の姿はほとんどなくなる。
そんな林の中を狼たちが駆けていた。
10頭程度の群れだ。
そしてそのうちの数頭が木々の間の地面を
その場所は土が一度掘られて何かを
やがて狼のうち一頭が短く
掘られた土の中から何かが見えてきた。
狼たちはその何かに
そして出て来たのは……血にまみれた人間の体だった。
高齢の男性のものと
何者かが彼を殺害してここに
その遺体の胸ポケットには一枚の紙切れが
それが共和国大統領印の押された薬売りの許可証であることは、もちろん狼たちには分かるはずもなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます