第113話 ネル
夜の山道にヒュウッと風切り音が鳴り響く。
矢を放ったネルはそれを聞いてニヤリとすると
そして矢の刺さった小型の
首を貫かれて即死しているのは、夜行性のトビウサギだった。
「今夜の晩飯に一品追加だ」
そう言うネルにアーシュラは冷たい目を向ける。
「勝手な行動は
「たまたまコイツが見えたんで。ついでっすよ。ついで」
ネルは悪びれることなく矢を引き抜いて、トビウサギの足を手早く
トビウサギの首から赤い血がポタポタと落ちて地面を赤く染めた。
周囲は
つい今しがた、山道を歩いていたネルが突然、弓に矢を
その矢は一撃で獲物を仕留めた。
その様子に他の仲間たちは
それを見てネルは気持ちよさげに鼻を鳴らした。
「フンッ。毎日こんな仕事ばかりやらされているんでね。つい体が動いちまうんだよ。職業病ってやつだなこりゃ」
ネルは夜の
そんなことが出来るのは彼女が的を目だけで
彼女の目は的とその周囲の空間を立体的に
視力に頼るのではなく、その感覚に頼るため、的までの命中
弓兵部隊の隊長である双子姉妹のナタリーとナタリアもネルを天才だと評していた。
だが、若くして天才的な弓の腕を持つ彼女は
「こいつはアタシの分だぞ。食いたきゃ自分で獲ってきな」
そう言うとネルは、プリシラたちが
ネルにとって仲間の存在はどうでもよかった。
とにかくこの弓で敵を射抜ければそれでいいのだ。
(早く王国軍の連中を
ネルは実戦に
15歳で成人してすぐに実戦部隊への配属を願い出た。
最初の任務は共和国内を荒らす
この任務でネルは敵の頭領を含めて10人もの相手を射殺した。
本来ならば
ネルが矢を放とうとした時に射線上に入って来た仲間を蹴り飛ばしたり、ひどい時には故意に仲間に矢を射かけて射線上からどかせようとした。
その際は味方がネルの矢を避け損ねて、腕に刺さってしまうという事故に
そうした問題行動を
ネルとは共に戦えないと、仲間たちからの強い抗議があったからだ。
そしてネルは野山で
そしてとうとうたった1人で狩りの仕事をさせられるようになったのだ。
(どいつもこいつも口やかましく言いやがって。アタシに戦場でやりやすいようにやらせてみろってんだ。そうすりゃ結果も残せるし、上の口うるさい連中も
ずっと抱えている怒りがある。
それは腹の奥底で昼夜問わずに燃え続けるのだ。
鉄をも溶かす
だが、そんな燃え盛る怒りに冷や水を浴びせる者がいた。
「その弓矢の腕でどんな戦場でも乗り越えていけるつもりですか? 笑えますね」
そう言ったのはアーシュラだ。
その顔には
思わぬ上官の言葉と態度にネルは表情を
「……は?」
「その程度の腕でまるでこの世の頂点を取れるかのような勘違い。若気の至りにしても恥ずかし過ぎますよ。お嬢ちゃん」
アーシュラの言葉にその場の空気が凍り付く。
プリシラや他の者たちは皆、
しかし直接言葉を向けられたネルは明らかにその顔に怒りを充満させている。
腹の怒りの
「隊長ぉ~。部下を
明らかに怒りで理性を失いつつあるネルのその態度に、後方で声を上げるのはエステルだ。
「ふ、不敬ですよ! 上官に向かってそのような……」
「うるせえぞ!
「なっ……」
後方から抗議の声を上げるエステルを無視してネルはアーシュラを
「さあ、撤回してもらいましょうか。隊長殿」
「図星を突かれて怒り心頭ですか? 言っておきますが、そんな程度の腕では本当の戦場では何の役にも立ちませんよ。証拠を見せましょうか。そこから今、ワタシに向けて矢を放ってみなさい。軽く避けて見せますから」
アーシュラのその言葉にネルを含めたその場にいる全員が
ネルとアーシュラの間にはたった10メートルしか距離がない。
この距離で矢を避けるのは至難の
エステルが青ざめて金切り声を上げた。
「た、隊長? な、何かお考えがあってのことでしょうけれど、無茶は……」
「ハァァァァァッハッハッハッハ! 隊長。笑っちまうのはこっちですよ。あんた。本気で言ってんのか? だったら頭イカレてるぜ。死んじまうでしょうが。そんなことしたら。アタシに上官殺しの汚名を着せるつもりですか? ハッハッハ!」
エステルの声を
だがアーシュラはその顔に冷笑を浮かべたまま言う。
「殺せませんよ。だって当たりませんから? あなた程度の腕前でワタシに当てるのは絶対に不可能です」
「……おもしれぇ。後悔しますよ」
そう言うとネルは殺気立った目を血走らせて、弓に矢を
そして
「や、やめなさい! ネル! プ、プリシラ様」
だが、アーシュラがプリシラにじっと視線を向けた。
その視線がその場に留まるように告げていて、プリシラは思わず動けなくなる。
そして怒りに我を忘れたネルが
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