第112話 オリアーナ
「邪魔くせえもん持ちやがって。そいつは夜は役立たずだな」
すぐ前を歩くネルが後方を振り返って
オリアーナはそれを無視して、周囲を布で目隠しした
日が暮れ落ちたので、連れて来た
そしてオリアーナが腰に巻き付けた
この作戦に参加するとなった時、オリアーナは気乗りがしなかった。
獣舎を離れることとなり、連れて来た
物心ついた頃からオリアーナは
そして
その反面、人は苦手だった。
オリアーナは順序だてて言葉を並べることが不得意だ。
何を言おうかと考えている内に相手からポンポンと言葉をかけられると、どう返答していいか分からなくなる。
そして人が自分に向けてくる悪意や好奇の視線が苦手だった。
人の持つ複雑な感情を向けられると、無性に
(早く……帰りたい)
ネルは
だが、それでもブリジットの招集とあらば従わねばならない。
それにオリアーナの所属する獣使隊は、
かつて戦の時代には
何しろ
獣使隊の主力となっている
獣使隊が今も健在なのは、創設者であるブライズや現隊長のアデラのおかげでもあるが、この先はどうなるか分からない。
(獣使隊が無くなったら……アタシは居場所が無くなる)
獣使隊の他の隊員たちとうまくいっているとは言えないオリアーナだが、それでも
(この作戦で何とか成果を上げて
オリアーナを徐々にそういう気持ちが強くなっていた。
だが本当に自分にそんなことが出来るのかという不安も同時に彼女の胸に
そもそも何で自分がこの任務に指名されたのかオリアーナは理解していなかった。
彼女はそんな自分の不安を紛らわす様に、振り返って
バラモンとはまだ彼が生まれたばかりの頃からの付き合いだった。
ずっと一緒にいたから、バラモンが何を考えているのかよく分かる。
彼女にとっては兄弟のような存在なのだ。
今もこうしてバラモンの毛並みを
そしてバラモンもそんなオリアーナの不安を感じ取り、寄り
「オリアーナ。その子。おとなしいですね」
そう言ったのはいつの間に
オリアーナはハッとしてアーシュラを見て、次にバラモンに目を向けた。
オリアーナのように
故に獣使隊の隊員以外は、
行きの馬車でもオリアーナと
今もこうして歩いている中、プリシラたち他の面々はバラモンとは一定の距離を保っている。
だが、アーシュラはバラモンに全く警戒させずにオリアーナの間合いに入って来たのだ。
そのことはオリアーナをたいそう
バラモンは彼女の前ではこうしておとなしくしているが、それでも
同じダニアの女であっても、見知らぬ者には決して慣れず、下手に近付けば牙を
だがバラモンはアーシュラにまったく反応していない。
まるで誰もそこにいないかのように、ただ静かにオリアーナを見つめて歩き続けている。
(これが……アーシュラ……さん)
アーシュラがかつて暗殺を含めた密偵行為を手がけていたことは誰もが知っている。
まるで影のように音もなく近寄り、静かに相手の息の根を止める技術が今もその身に宿っているのだと思うと、オリアーナはわずかに怖くなった。
その
オリアーナはそんなバラモンの頭を優しく
その様子を見たアーシュラはかつて共に戦った仲間の名を口にする。
「あなたはアデラさんに似ていますね。
「えっ……?」
アーシュラは静かにバラモンを見下ろした。
「今後、獣使隊は徐々に
その話にオリアーナは落胆して
だが、そんな彼女の様子を見ながらアーシュラは話を続けた。
「しかし……
アーシュラの話に
アーシュラはそんなオリアーナから視線を外し、前方に広がる
「考えることを放棄してはダメです。そうやって
オリアーナは思わずビクッとするが、アーシュラからの圧は変わらない。
仕方なくオリアーナは必死に口を開いて声を
「こ、この任務で……
「なるほど。良い考えですね。ですがそれだけではダメです。それでは獣使隊は救えません」
アーシュラにそう言われ、オリアーナは目を白黒させる。
それ以上は何も思い付かないからだ。
そんなオリアーナにアーシュラは落ち着いた口調で言う。
「
アーシュラの話すの内容が、近い将来本当に起き得ることなのだと感じて、オリアーナは思わず
そんな状況になったらもう自分に出来ることは何も無い。
オリアーナは絶望が胸に広がっていくのを感じて肩を落とす。
そんな彼女を見てアーシュラは静かに言った。
「受け入れられないことは受け入れられないと言うのです。態度と言葉で自分の意思をハッキリと主張しなさい。人が言葉を
アーシュラは
オリアーナもそれは理解できるが、自分の意思をハッキリと伝えるために言葉を尽くすというのは彼女にとって何よりも難しいことだった。
オリアーナは
「アタシには無理……です」
「……
アーシュラの言葉にオリアーナはハッとして顔を上げる。
その
そんな彼女にアーシュラは
「オリアーナ。あなたには相手に意思を伝える言葉がありますよね。
そう言ってバラモンに優しい視線を向けたアーシュラに、オリアーナは
(アタシが……この子たちの居場所を……)
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