第23話よしよし

 セラフィはアレクシスの想いを受け止め意識を失った。


「大丈夫ですか!」


 心臓の音と呼吸を確かめ、アレクシスはホッと息を吐いた。むにゃむにゃとセラフィが寝言のような声を出したので、ただ眠っているだけだとわかって安堵する。


敏感な性質だと気づいていながら、アレクシスは加減ができなかった。最初は気遣いながら、セラフィにあわせてと思っていたアレクシスの理性の糸はセラフィの涙を見たとき、あっけなくブチ切れた。セラフィに魔術の制御の大切さを教えていた大人の一人として恥ずかしく思う。

 眠っているセラフィは疲れ切った顔をしていた。


「こういうときは水の魔術が使えると便利なんですけどね」


 水をくみなおして布をしめらせてセラフィの身体と自分の身体をふき、アレクシスもセラフィの隣に潜り込んだ。

 アレクシスに巻き付いてきた寝ぼけたセラフィを抱きしめる。やはり初めての情交がきつかったのか、セラフィの眉間に皺が寄っていた。


「辛かったですか? よしよし、セラフィはいい子でしたよ」


 頭を撫でながら眉間にキスを落とすと、寝ているセラフィが嬉しそうに笑った。昔から変わらない笑顔にアレクシスは癒やされた。



 セラフィは掌がくすぐったくて目が覚めた。向き合うようにして眠っていたセラフィの手をとってアレクシスが古い傷跡に唇を寄せていた。まるで癒やすような優しいキスに、セラフィは心地よくて微笑んだ。


「おはよう、アレク」

「おはようございます、セラフィ」


 目が合うといつものように微笑むアレクシスの目の下に隈が見えた。アレクシスは肌が白いから隈やうっ血が目立つ。セラフィは驚いて尋ねた。


「寝てないの?」

「……眠ろうと思ったんですけれど、セラフィを抱いているとドキドキしてしまって――」


 アレクシスの顔色は悪いけれど、満足そうだ。けれどそれでいいわけがない。眠らないと人は死んでしまうのだ。


「ええっ、どうしよう。寝台は別にしたほうがいいのかな。アレクが寝不足なの、……嫌だし」

「駄目です。断固反対です。寝台は一緒がいいです」

「でもアレクの美貌の危機なんだから」

「セラフィが嫌でなければ、美貌はどうでもいいです」

「困ったな。アレクの美貌は僕の楽しみなんだ。そうだ、僕が寝かしつけてあげるね。ほら、目を閉じて?」


 セラフィはアレクシスの肩をポンポンと叩いて眠るようにと言った。


「よしよし、アレクシスはいい子だから眠れるよ」


 そしてチュッと額にキスをした。


「フフッ」

「笑っちゃ駄目」

「口にキスしてくれたら眠れるかもしれません」


 アレクシスのお願いを聞いて、セラフィはアレクシスの唇にキスを落とした。


「……え、本当に寝た」


 アレクシスが寝たふりをしているのかと思って見ていたセラフィは、眠っているとわかる吐息を聞いて安心した。


「キスってすごい効果があるんだ……」


 セラフィは驚きながらアレクシスの横に潜り込んだ。もう一度、今度は夢で会いたいと思いながら目を閉じる。

 二人が昼過ぎまで起きてこないことにやきもきするカリナが起こしにくるまで眠った。夢で会えたかどうかはわからないけれど幸せな日々の始まりだった。

                     〈Fin〉


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