第20話初夜なのに寝かせつけようとしないで
昼間の喧噪を感じさせない静かな夜になった。離宮以外知らないセラフィにとって、王宮の中は慣れない場所だ。住むところもアレクシスがいなければたどり着けるかわからない。
「ここです――。魔術師団にも近いからギリギリまで寝られますね」
フフっと笑ったアレクシスが、扉を開けた。
「わぁ、なんだか過ごしやすそう」
色や家具の配置がセラフィにそう感じさせた。
「王妃様とカリナ姉様ががんばってました。本当は私が選びたかったんですけどね。こういうのは女の人の方が得意なんだなと途中で諦めました」
「お母様とカリナ先生が?」
「ええ、あなたの好みは残念ながら二人の方が把握してるようです」
「アレクもくつろげる?」
「あなたがいればそこが私の楽園です」
ププッと笑ってセラフィは寝室へ続く扉を開けた。
「アレクはいつも僕を嬉しがらせる言葉を言うけれど、恥ずかしくない?」
「あなたが嬉しいと言ってくれるなら恥ずかしくありませんよ。セラフィ、薔薇を美しいと褒め称えることを恥ずかしがる人はいますか?」
「薔薇……、は美しいね」
「それと同じです。でも感性が合わない人もいますから、そんな人には言いませんよ」
微笑むアレクシスに上着を脱がされ、シャツを脱がされ、身体が軽くなっていくにつれ、セラフィの心も身体も期待に浮き立つ。
「さぁ、お風呂にはいっていらっしゃい。朝から忙しくて疲れたでしょう?」
アレクシスはセラフィの額にキスをした。それがおやすみのキスだと気づく。
「アレク! 今日は結婚した最初の日、初夜だってわかってる?」
セラフィとアレクシスはお互いに想い合ってからもずっと最後の一線は越えられなかった。それは父ジョセフがアレクシスに魔術を使って契約させたからだ。エドアルドに聞いた時、娘ならわからないでもないけれど、息子の貞操を心配する男親がいるか? とセラフィは憤慨した。セラフィはジョセフに親馬鹿という称号を与えたいと思った。ジョセフは栄誉だと思うかもしれないが。
「わかっています。でも疲れているのに無理矢理組み敷いて、足腰立たなくなるまで抱き潰してあなたに嫌われたくないので――」
「嫌いになったりしないよ! む、無理矢理じゃないし……」
セラフィが抱きつくと、アレクシスは苦笑してもう一度忠告めいた言葉を発した。
「泣いても止めてあげられませんよ」
「泣かない! 泣いても……止めないで――」
力を込めて抱きしめると、アレクシスはフッと力を抜いて「いいでしょう、セラフィ」と耳元で囁いた。
「一緒にお風呂に入りましょうか」
そう言って、アレクシスは自分の服も脱ぎ去ってセラフィを抱き上げた。
「もう大人なんだから抱き上げなくていいよ!」
「何を言ってるんですか。私はセラフィを抱き上げるのが好きなんです」
今日のアレクシスはいつもと違って何だか恥ずかしいことばかりを言うと思いながら、セラフィは落とされないように首に抱きついた。
「抱き上げるとセラフィは必ず首に抱きつくでしょう? それが嬉しくて」
密着してアレクシスの顔を側で眺められるから実はセラフィも抱っこされるのが好きだった。それは言わないでおく。
「セラフィ、身体を洗いますよ」
アレクシスは丁寧に布でセラフィを洗ってくれた。この城の風呂はどの部屋も大きめの石の浴槽が中央にあって、周りに身体を洗う場所がある。水の神の守護を受けている国だけあって、風呂は誰もがこだわって作るのだ。
「アレク、洗ってあげる」
「自分でやります。先に湯船に浸かっててください」
アレクシスはセラフィに何一つとしてやらせたくないのかもしれない。セラフィだって、アレクシスの身体を洗ってあげることくらいできるのに。
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