短編集

流星

私の中の貴方

老いぼれの戯言です。

暇なら聞いてほしい。

四十年前、私は貴方に一目惚れをしました。

長い黒髪に、茶色に透き通る瞳、すらっとした足。

貴方は誰よりも美しかったんです。

時々会える日があったんです。

前から歩いてくる貴方の匂いが好きでした。

いつも一人の貴方がとても不思議でしょうがなかった。

貴方の家に前で要らぬ虫がつかぬように駆除していたのです。

あぁ、今日も薔薇色に染まりました。

でも、いいのです。

これは貴方の純白を守るためなのですから。

貴方の作るカレーの匂いは世界で一番おいしそうな匂いがします。

貴方の布団の匂いは薔薇の匂いがするのです。

貴方に要らぬ虫の気配がしました。

今日もまた虫の駆除が必要なようです。

あぁ、今日も薔薇色に染まる。

でも、いいのです。

これは貴方の清廉さを守るためなのですから。

今日もカレーのいい匂いがします。

でも、私が食べるのは貴方が夢の世界へ行ってから。

ここ数年、私は貴方の寝顔しか見ていない気がします。

あぁ、寂しいのです。

あなたの茶色に透き通る瞳が見たいのです。

なんて美しい瞳だろうか。

そんなに私を見つめてくれるなんて四十年間であっただろうか。

貴方が薔薇色に染まりました。

でも、いいのです。

貴方が見つめてくれたのですから。

貴方の背中を四十年間感じ続けていてよかった。

私はこれで自由です。

貴方のことを私だけのものにして、私の家に帰れるのですから。

あぁ、四十年ぶりの太陽の下です。

今日は空が薔薇色に染まっています。

まるで貴方の最期の姿のように。

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短編集 流星 @ryusei6

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