アリヤースの話⑥

「落とし前だぁ?何の話だ。」

「ついさっきの話。だから君が知らなくても仕方がないんだけど。君の所の冒険者、例のあの二人が俺のギルドの冒険者、アリヤース達の仕事の邪魔をした。そしてそれが原因で彼女は怪我をした。」

「何?」

「ボス!大丈夫ですか!」


騒ぎを聞きつけてギルドの職員が数名部屋に飛び込んでくる。

職員といっても冒険者ギルドの職員だ、武器を片手にやってきた。

だが肝心のギルドマスターは俺への対応を決めかねている様だ。

数秒、時が止まる。


「ガガジさん、俺は別に喧嘩をしたいわけじゃない。ただ話し合いをしたいだけだ。」

「……。とりあえず、お前らそこで待機していろ。」


ギルドマスター、ガガジは職員に指示を出し自身もイスに再度座りなおした。


「お前の冒険者が怪我をした?そりゃ誰から聞いたんだよ。」

「本人達からだよ。たまたまさっき道でばったり会ってね。全身擦り傷だらけ、加えて右腕は骨折しているときている。」

「それが俺の所の奴らが邪魔したせいだと?はん、どうせ下手打ちの責任転嫁で嘘ついてるだけだろ。」

「そうだね、君の立場ならそういうだろう。だから、君の所の二人からも話を聞こうじゃないか。彼らは怪我をして仕事が出来ないんだろ?じゃあ、街にいる筈だよね。」

「あん?いるんじゃねぇか?」

「……」

「………それがどうしたんだ?」

「何で分からないかな。連れてこいって俺は言ったつもりなんだけど。早くしてよ、俺も暇じゃない。」

「ああ?てめぇ俺に命令してんのか?」

「命令のつもりはなかったけど、命令にしてもいいよ。」

「は?」


目の前にある応接用のそれなりに高そうな机を座ったまま蹴り上げる。

それは天井に突き刺さり少しの振動と木屑が舞った。


「な、おまっ、何しやがる!」

「いまいち真剣味が感じられないからさ。俺は喧嘩したくて来ている訳じゃないけど、喧嘩になるかどうかはそっち次第だから。」

「弱小ギルドが俺らと戦争しようってのか!」

「弱小?誰が?俺が?それ本気で言ってる?」

「……ちっ」


俺達を本気で弱小ギルドだと思っているのだったらそもそも交渉などしなかっただろう。

まだ活動をし始めてから日は浅いが仕事熱心な皆のおかげで俺達の実力は有名になっている。

それはナクティスだけではない。

アリヤースを筆頭に皆だ。

なにより彼らは元々自由の盟約の有名冒険者だったのだ。

加えてバンパイア騒ぎでの活躍もある。

規模はともかく彼らの実力にケチをつける人間などいない。


「おい、ザワイとブロワーを連れてこい。」

「は、はい!」


ギルドマスターの指示で職員達が慌ただしく外を出ていく。

その入れ替わりでアリヤース達が現れた。


「アリヤース?宿に戻るように言った筈だけど。」

「あー、悪い。聞かなくてな」

「オオヤ、私……!」


アリヤースが何か言おうとするがその前に話を遮られる。


「はん!それが怪我したって冒険者か?大した傷には見えねぇな。それぐらいでピーピー騒ぎやがって!」

「ガガジさん。無駄口を閉じてくれるかな。」

「ああ?さっきと違ってやけに強気じゃねぇか。部下の前だからって格好つけてんのかよ。」


ガガジは鼻を鳴らして不遜にアリヤース達の方を見て、そして馬鹿にした様な口調で話す。


「なあ、お前ら。お前らのギルドマスターはよぉ、さっき俺の所に頭下げに来たんだぜ?てめぇらが起こしたトラブルの件でな。仕事中に鉢合わせしたらマズいから何とかしてくれってよぉ。ははっ、確かにそんな軟じゃあ心配するのもしょうがないかもなぁ!」

「……!!」


アリヤースは侮辱されたにも関わらず珍しくガガジに反論もせず俯いて下唇を噛んでいる。


「おい、おっさん。ぶちのめされたいのか?」


逆にキレたのはカイドー達だ。

二人共殺気がこもった目でガガジを睨んでいる。

だがガガジも冒険者上がりのギルドマスターだ。

引くことをなく上からの態度を崩さない。

彼のそのスタイルもギルドマスターとしては正しい物なのだろう。

ギルドマスターが舐められればそこに所属する冒険者も舐められる。

俺がこの街で舐められやすいのは、この街で冒険者としての実績が一つもなくギルドマスターになった事に加えて消極的な態度も原因だろう。


「ガガジさん。刺激するのは止めてよ。」

「てめぇの教育が悪いんだろうが。躾のなってないイヌみたいに殺気を振りまきやがる。」

「彼らじゃなくて俺の話だよ。」


膝の上で組んでいる両手が軋む音が部屋中に大きく響く。

分かる人間にはそこに込められた魔力の動きが分かるだろう。

そしてそれを俺が衝動的にそれを振るわない様に抑えている事も。

カイドー達は気付いたのか俺を見て殺気を消した。


「俺は別に、君達が怖いわけじゃない。さっきの態度で勘違いさせたならそれを正すけど、俺が消極的対策を取ったのはあくまで最悪を回避する為の物だ。」

「だから俺達と揉めたくないって話だろうが。何が違うんだ?」

「違う。俺にとっての最悪はもう既に起きた。アリヤースがトラブルが原因で怪我をしてしまったじゃないか。」


本当に腹が立つ。

自分自身の不甲斐なさに。


「衝突しない様に裏で手を回す事が最善だと思った。俺自ら相手を煽る様な行動は避けるべきだと。……だが、それは間違いだった。だから方針を変える事にした。だけど、俺は今回見せしめは加害者のあの二人だけで良いと思っている。だからさ、お互いの為に、俺をこれ以上刺激しないでくれ。」


殺すまではするつもりはないがただでさえ俺は手加減が苦手なんだ。

少し力を込めてしまっただけで殺してしまう可能性は十分ある。


「見せしめだと?俺の所属冒険者に手を出したら俺も容赦出来ねぇぞ。」

「うん、俺も容赦するつもりはない。ただそれだけの話だよ。」


俺はそう言ってソファを立った。

その動きに反応しガガジはイスを慌ただしく立ち上がり俺から距離を取った。

ちゃんと俺の魔力に気づいていたらしい。

それであの態度か。

成程、俺が言うのもなんだけれど大した胆力だ。

業腹だが同じギルドマスターとして見習うべき所はある。

俺はそんな彼をあえて無視してアリヤース達に言った。


「帰る気はないんでしょ?怪我してるんだ。座りなよ。」


数十分後、ようやく例の二人がやってきた。

職員に連れてこられた二人の姿を見て彼らが決して街で待機していた訳ではない事が分かった。

ズボンが泥で汚れているし少し汗臭い。

まさか公園でかけっこ遊びをする年齢でもあるまい。

そして何より彼らはソファに座るアリヤースを見て露骨に動揺していた。


「馬鹿共が……!」


ガガジも気付き苦虫を嚙み潰したような顔で悪態を吐いた。


「ボ、ボス、こりゃ一体……」

「そりゃあこっちのセリフだ。お前ら、今日どこで何してやがった!」

「ど、どこって……」


目を泳がせながら言葉を探しているその姿はこれから噓をつくと白状しているに他ならなかった。


「ちょ、ちょっと薬草の採集に行って……」

「その行った場所っていうのはバウレ村でしょ?」

「ぐっ、いや、それは……。」

「お前らがそんな地味な仕事するなんて珍しいじゃねぇか。あ?しかもギルドにも言わずによ。」


ガガジはこの場で話を誤魔化す様な事はしなかった。

それはこの場で口裏合わせをする事は不可能である事が大きい要因かもしれないがそのおかげで話はスムーズに進んだ。

結果的に見苦しい言い訳は多分に含まれていたがアリヤース達の妨害をした事は認める事となった。


「……成程な。」

「分かってくれたかな。俺はこの件をもう口だけの謝罪と約束で許すつもりはない。それじゃあまた同じ事が起きるだけだからね。」

「金を寄越せとでも言うつもりか?」


ガガジはあくまでまだ尊大な態度は崩さなかった。

多少なりとも彼の人となりが分かり始めた俺はそれがパフォーマンスを含んだ態度である事を理解した。

俺の要求を警戒しているのだろう。


「聖教会への御布施金程度だったら出してやってもいい。だがそれ以上は渡す気はねぇ。トラブルの原因は元はそこのガキだ。逆にてめぇらはザワイの怪我の治療費を払ったか?」

「怪我の原因はどっちもそのザワイ君が原因だろう。アリヤースと彼は同じ立場じゃない。はっきり言おう、俺達は完全なる被害者だ。その理屈は通らないね。それに、君が払える程度の金で許すわけないだろ。」

「なに?」

「今回の件を例えば聖教会に払う治癒代金。大体銀貨10枚~20枚程度で手打ちにしたとする。そんな事をしたら冒険者達にアリヤースが軽んじられるじゃないか。それじゃあ意味ないだろ。」

「おい、調子に乗るんじゃねぇぞ。」


ガガジの身体で魔力が練られていくのが分かる。


「この程度のトラブルで俺に借りを作ったとでも思ってんのか?俺はそこのガキの自業自得とすら思ってるのに、金まで出してやろうとしてやってんだ!それ以上望むってんならやっても良いぞこっちは!」

「自業自得?」

「おうよ、こんなトラブルな、冒険者個人で解決する問題だ!わざわざ俺やお前が出張ってくる事じゃねぇ!」


ガガジの言葉には本心が混じっている様に感じた。

そして彼の所属冒険者に対するスタンスもそれによって見えてくる。

管理者責任という意識は大手の冒険者ギルドでもない限り持っていないのは俺も分かっている。

だがそれは問題を起こした側が言える道理ではない。

そんな思想のガガジが大人しく金を払おうとしたのは面倒を嫌っただけの事だろう。


「アリヤースの怪我は自己責任だと?」

「当然だ!そいつが敵を作っただけの話だろうが。」

「さっきの話合いの時は所属冒険者がしでかした事はギルドマスターの責任だとか偉そうに俺にご高説を垂れていたと記憶しているけど。……まあ、いいや。それが君の考えなら俺がこれからやる事を黙って見ててよ。」

「なんだと?」


俺は入口前で所在なさげに立っている冒険者二人に朗らかな笑みを浮かべて近寄る。


「良かったじゃないか、二人共。君らのボスはこの問題に干渉する気はないみたいだ。」

「え、お、おう?」


彼らはまるで無警戒に俺の接近を許した。

この場にいる誰も俺の怒りを分かっていないのだろう。

こんな場所で何もされないと能天気にも考えているのだ。

俺の仲間のアリヤースをふざけた逆恨みで傷つけたのに。

俺はあくまで友好的な雰囲気でザワイの肩をポンポンと叩く。


「怪我の予後も良さそうだ。順調に治っていってるね。これなら明後日には仕事に戻れるんじゃないかな?本当に良かったね。」

「おい、てめぇ何を……」

「いぎゃああああああああ!!!」


俺は彼の肩を掴んだまま力を籠める。

肉が、骨が、音を立てて破壊されていく。

指に掛かる抵抗が強くなる。

咄嗟に魔力で物理耐性を向上させたのだろう。

意味無いけど。


「オ、オオヤ!?」

「この程度の傷で、君はアリヤース達の仕事の邪魔をし、怪我をさせる切っ掛けを作り、あまつさえ魔獣に彼女を差し出した訳だ。なら同じようにこの程度の報復はされるって予想出来なかったかな」

「や、いゃめろぉおお!」


俺はそのまま彼の右肩を潰し、引きちぎった。

ザワイは血をまき散らしながら床をのたうち回る。

俺はそんな彼を見下ろし、残った左腕を踏みつけた。

暴れ回るが俺の足から逃れる事は出来ない。


「ぎいぃあああ!!」


そして左腕も右腕と同じ運命を辿る事になった。

両腕を失い痙攣する彼はもういい。

俺は次の相手に目を向けた。

次の相手、確かブロワーだったかな。

彼は自分は関係ないと思っているのか、それとも状況が認識出来ていないのか逃げる事もせずに悲惨な状態になった仲間を呆然と見ている。

だが俺の視線に気付き、ようやく自分もターゲットだと認識した様だ。

無防備に背中を見せて逃げようとする。

しかし、何故か彼は部屋を出る事も出来ずに転んだ。


「いぎっ!な、なんで!?」

「そんなに必死こいて逃げなくても良いじゃないか。お友達とお揃いにしてあげようっていうのに。」


俺は彼の背中を踏みつけて両腕を引っ張る。

力加減を間違えると背中をぶち抜いてしまうから気を付けないと。

彼らを殺す気はないんだ。


「あああああああああああああぁあああああ!!」


幸い、彼の両腕だけ引きちぎる事が出来た。

引きちぎった両腕は部屋の隅に投げ捨てた。

ガガジも、アリヤース達も目を見開いてそんな俺を見ていた。


「ふぅ……。騒がせたね。」

「い、イカれてんのかてめぇは!?衛兵を呼ぶぞ!」

「呼べば良い。大人しく捕まるよ。」

「はあ!?」


司教殺しと違い、一般冒険者に怪我をさせた程度では死刑にはならないしね。


「俺が捕まる事。それは大した問題じゃない。問題とはまた同じ事が起きてしまう事だ。」

「たかだが冒険者一人の為に牢屋にぶち込まれても良いってのかよ!」

「たかだかじゃない。アリヤースにも、カイドー、アルヴェン。ギルドに所属する全員に俺がそれをするだけの価値がある。」

「か、格好つけ野郎が。なら、お望み通り衛兵を呼んでやる!おい、お前、行ってこい!」


ガガジに命令された職員は青ざめた顔をしたまま外に出ていった。

青ざめているといえばアリヤース達もだ。

彼らは俺の行いにドン引きしているのか言葉を失った様子だ。


「悪いね、ちょっとの間、またお勤めしてくるよ。」

「オ、オオヤ。お、お前何て事を……」

「私の所為……!?私の所為でオオヤが牢屋に……!」

「いやいや、3人とも落ち着いて。こんな事は大した問題じゃないって言っただろ?直ぐに戻ってくるから。」

「はん!どうだかな!」


俺という危険人物は依然部屋の中にいたままだがガガジは俺が大人しくしているのと衛兵を呼んだ事で落ち着きを取り戻したみたいだ。


「てめぇに刑期を減らせるだけの金を払えんのか?最低でも数か月は入る事になるぜ。所属冒険者によく似てギルドマスターも短慮な馬鹿だったとはなぁ。」

「お前……!」

「まあ、俺が馬鹿なのは認めるよ。何せ、交渉相手を損得勘定が出来る知能があると勘違いしてたんだから。今日の数時間の君との話し合いはまさしく徒労だったね。」

「あん?」


俺の軽口にガガジはカチンと来たのか表情をまたまた変える。

それに気付かない振りをして未だに床に蹲る両腕を失った冒険者二人を見下す。


「結局、言葉じゃ分からない人達もいる。」


なんて切り捨てる真似をしたくないから最近の俺は殺しや暴力に否定的だった訳だけれど。

だが今の俺は一人じゃない。

身内とその他、優先順位を付けるべきだ。


「想像力がない、そしてその為に危機感もない。仮にガガジさんがよく言って聞かせても無駄だと思ってしまった。」


そして悲しいかな、冒険者にはそんな連中が山ほどいる。


「想像力がないなら実際に体験させて覚えさせてあげる他ない。口だけでそれが虎の尾だと教えてやる事は俺には無理だ。……でも、ガガジさんはまだ話が通じそうだから一応言っておくよ。」

「……なんだよ」


ガガジは俺をまるで異常者を見る様な目で見ている。

そんな目で見られたくないと普段なら思うが、今回の場合俺は彼にそう思って欲しかったのだった。


「今回はこれくらいで手打ちにしてあげるけど。今後、また同じ事があったら君の手足の心配もした方が良い。」

「は、はっ!脅しか?豚箱にいるてめぇに何が出来るってんだよ。大体何が手打ちだ!俺の所の冒険者二人を使い物にならなくしたてめぇが言う事じゃねぇだろ!」

「言えるさ。だって君は冒険者が傷つけられても治療費さえ払ったら良いんだろ?」


俺はポケットに手を突っ込みわざと下品にジャラジャラ鳴らした。

ガガジは不審な顔でこちらを伺っている。

俺は彼の机に近づきポケットの中の物をそこに落とす。


「なっ、お、お前これ……!」

「えーっと、金貨20枚ぐらいかな。これぐらいしか今は手持ちがないや。治療費の相場の3倍、4倍ぐらいだけど。ケチな事は言わない。取っときなよ。これで文句はないでしょ?」


ガガジはその金貨を前にしてついに表情に恐怖心が出てきた。


「そして君の質問に答えるなら……。減刑出来る程の資金力はあるのか。という問いの答えはご覧の通りだ。加えて知っているかもしれないけど、俺は一般市民や領主様への覚えは良い方なんだよね。牢屋にいて何が出来るって言ったかな。君か、もしくは君の所の冒険者が何かする前に俺は既に外にいるよ。」


俺に気おされているガガジはハッタリだ、とは言わなかった。

まあ、ハッタリなのだけれど。

一般市民の好感度は高いが領主様からは余り良い感情を抱かれていない気がする。

それに今しがた渡した金も実は俺の金じゃないし。


しかしそれはガガジからは分からない。

ガガジだけではない。

彼の所の冒険者、また、それ以外のこの街の冒険者達には分からない。


俺はこの街では冒険者としての実績がない無名だから軽んじられている。

仲間達を守るには今のままじゃ駄目だ。

だから俺は同業にやると言ったらやる男だと示さなければならない。


「それが可能なのは俺の冒険者達の働きのおかげなんだ。資金力も、評判も政治力も彼らが俺に与えてくれた物だ。たかだが冒険者なんてとんでもない。彼らがいなきゃ俺は成り立たない。だから俺が優しさを見せるのは今回限りだ。」

「な、なんだと?」

「一つ、俺のギルドの所属冒険者と君の所属冒険者が仕事中に出会った際には立ち去らせろ。」

「……は?」

「それがなされない場合はこちらに敵対したとして強制的な排除をする様に俺は仲間達に【命令】をする。そして2つ、それに対して法的、非合法的な手段を問わずに反抗したとこちらが判断した場合には完全に敵対したと判断し、能動的に排除する。」

「何言ってんだてめぇは!?」

「ギルド間の新しい協定だよ。消極的手段はお気に召さない様だから。」

「そんなめちゃくちゃな話があるか!道理が通ってねぇだろうが!」

「最後に……、この通達を拒否するのであればその時点で敵対したものとみなす。つまり……今後は俺達と関わらずに関係のないところで活動をする様に。」


傲慢に一方的な協定を提示、いや、命令した俺にガガジはおろかアリヤース達も面白いまでに驚いた顔をしている。

ガガジの唾を飲み込む音が大きく聞こえる。


「そんな、馬鹿げた……そんな事をしたらこの街でのてめぇらの立場だって……」

「同じことを続けていたらそうかもね。君には見れない俺らの先々について考えてくれるのは有り難いけど。目先の自分自身についてよく考えた方がいいよ。」


天井に突き刺さったままのテーブルを掴み引き抜いた。

それはもう既に原型をとどめていなかったが俺はそれに片足を乗せた。


「君達に対しては徹底的にやる。やると言ったらやる。君や君の所属冒険者達にどんな事情があろうとやる。じゃないと他の冒険者ギルドと同じ事が起きるかもしれないだろ?脅しは実行力が伴わなければ効力はない。同じ事を続けない為にも絶対に、確実に、全ての持てる力を使って徹底的にだ。」


分かりやすいパフォーマンスだが俺は机を足ですり潰していく。

ガガジは最早悪態を吐く事すらせずに絶句している。

きっと頭の中は混乱しぱなっしだろう。

だから彼が何か言う前に衛兵が部屋に入って来た事により【話し合い】は強制的に終了した。

俺は言った通りに抵抗もせずにお縄についた。


「オオヤ!」

「じゃあ、また後でね。アリヤース、今日は俺のベッドを使うと良い。早く身体を治すんだ。元気が出る料理も準備しておくよ。ああ、そうだガガジさん。」

「……なんだ。」

「俺も鬼じゃない。一週間に一回ぐらい俺のギルドに来ると良い。仕事の予定ぐらいは教えてあげるさ。」


俺はあくまで牢屋からは直ぐに出られると最後にアピールしてギルドを出た。

アリヤース達の心配そうな顔を背に俺はギルド前で待機していた護送用の馬車に乗り込んだ。

鋼鉄製で窓もないそれはその時点で既にこれから行く場所の雰囲気を伝えていた。

それに乗り込んだ俺は思わず声をあげる。


「あっ、一週間ぶりだね。」

「……はぁ~~~」

「人の顔を見て長い溜息吐くのやめてくれる?」


先に馬車にいたのは顔馴染みの領主直属の兵士だった。

彼は闇窟に一緒に潜入した仲だというのに俺の顔を見るやいなや露骨に嫌そうな顔で溜息を吐いたのだった。

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