第6話

俺が衛兵に連れてかれてから、すぐに宿の中を彼らによって捜査の為に漁られた。

その間、その場にいたアルヴェンとナクティスにも聞き取りが行われた。(リクエラさんは存在がバレていなかったので隠れていた。)

司教の死体が発見されたのは今日の早朝。

なので昨夜殺された可能性が高いとの事だった。

アルヴェンとナクティスは冤罪を主張してくれたが何故か俺の部屋から司教の部屋から消えていた貴重品が見つかりそれが決定的な要因となり俺の有罪が決まった。

俺に嫌疑を掛けられた一番の理由はその殺害された司教と過去、更に直近でトラブルを起こしていたからだ。

彼女には決して言えないがナクティスとの関係も印象が悪かったのだろう。

そしてついに俺の有罪判決が決まり、俺の宿に待機していた皆にもその情報が入ったのだった。


「オオヤは罠に嵌められたのよ!嫌疑を掛けられるのはまだしも司教の部屋からの盗品が彼の部屋で見つかるのは絶対におかしいわ!」

「ああ、そうだろうな。だがだれがこんな事を?」


フロントのテーブルでその日、仕事から戻ってきたアリヤース達も加わり今回の件について話し合っている様だ。

激怒するアリヤースに同意するカイドー。

レイダリーも、というよりその場にいる全員は明らかに苛立った様子だが、イライラしながら口を開く。


「オオヤに罪を着せようってピンポイントで考えたっつー事は、オオヤと司教の関係を知っている奴って事だろ?後は司教を殺害したい動機がある奴だ。」

「誰よ!」

「分かんねぇよ、それをこれから考えるっていう話だろ?」

「もしくはオオヤに恨みがある者の犯行か……」

「自由の盟約の連中ね!ぶっ殺す!」

「落ち着け!軽率な行動をするな!」

「落ち着けるわけないでしょ!このままじゃオオヤが殺されちゃうのよ!?」

「アリヤース……」


彼らは明らかに浮き足立っていた。

そんな中で重苦しく口を開いたのは先程まで黙っていたナクティスだ。


「ねぇ、ナクティス。一緒に自由の盟約にカチコミしにいきましょ?私と貴方ならあんな奴ら全員惨殺出来るわ。」

「殺してどうすんだよ…」

「殺して死体を衛兵連中に突き出してやるのよ!本当の犯人だってね!」

「別の事件の自首になってんだろそれ。」

「アリヤース、いや、皆私の話を聞け。自由の盟約がこの件に関わっている可能性は低いだろう。というよりオオヤを罠に嵌めた連中は彼をそこまで重要視しているとは思えない。この件の連中のメインは殺害された司教だ。オオヤは丁度良い因縁があったから都合良く使われたに過ぎないだろう。何故ならオオヤを嵌めるのに司教を殺害するのはリスクとリターンが見合っていない。」


ナクティスは周囲が騒ぎ立てる中淡々と話始める。

しかし逆にそれが彼女の内に秘める激情を感じさせたのか騒いでいたアリヤースも口を閉じて大人しくなった。


「司教は教会内で殺されたようだ。聖域化している教会内でな。下手人は間違いなく手練れだ。そして衛兵達は教会の貴重品が宿から見つかった後日、次の日にも再度宿の中を捜索しにきた。」

「それがどうしたの?」

「アルメー、衛兵達はオオヤが有罪たる理由を1日目の捜索で見つけたんだ。であるのに次の日来た奴らは初日よりもよっぽど熱心に宿の中を捜索していたよ。まるで何か目的の物があるかの様にな。」


おっ、鋭い考察だ。

流石ナクティス。


「司教が殺害されたのはその目的の物が原因なのかもしれない。わざわざ司教を殺害したという事は彼が肌身離さず身に着けていた重要な物だと考えられる。あの司教は最近聖都から帰還したばかりとの事だ、何か聖都から持ってきたのかもしれん。」

「何かって何よ。」

「それは分からん。重要な事はそれが衛兵達にとってつまりこの都市の支配層にとって価値のある物という事だ。今、その物の在り処を知っているのはオオヤ。とあちらは認識している。司教殺害の容疑者なのだからな。という事はその物が見つかるまでは軽率に死刑が実行される事は無いんだろう。」

「それって……。でもそれはオオヤが拷問されるって事じゃない!そんな物なんて知らないのに!」

「ああ、だがすぐに殺される事はない。」

「ナクティス……。あんた、オオヤが痛い思いをしても良いと思っているの!?」

「思っている訳ないだろう。」


アリヤースの怒号にナクティスは平坦な口調で返答する。

表情も一見は冷静に見える。

しかし今まで見たどの彼女よりも恐ろしく見える。


「オオヤをただ助けるのは簡単だ。彼の捕らえられた独房に堂々と迎えに行けばいい。しかし、それはこの街、ひいてはこの帝国領で暮らしていけない事を意味する。あの彼がそれを望むとは思えない。」

「じゃあ、どうするのよ。犯人を私達で捕まえるの?」

「いや、それだけでは駄目だ。奴らにとって重要なのはその盗られた物品だ。犯人を見つけ、物を取り戻し、どちらも衛兵共に突き出す。」

「宛てはあるの?」

「ない。しかし、その手がかりを手に入れる為にリクエラに動いて貰っている。」

「どういう……」

「起きろ!尋問の時間だ!」


おっと気になる所でどうやら時間になってしまった様だ。

閉じていた目を開くと鉄格子の前に厳めしい顔をした衛兵が立っていた。


「おはよう、まだ俺に聞きたい事があるの?」

「黙れ、さっさと着いてこい。」


大人しく立ち上がって彼に着いていく。

しかし、ナクティス達もどうやら動いてくれる様だ。

俺の考えもナクティスと殆ど変わらない。

司教が殺害されたのは彼そのものの殺害が目的というより欲しい物があったのだろう。

どうしようかな、俺も一応考えがあるし、この時間が終わったら伝えてみようかな。


俺のスキルは宿内でしか行使出来ない。

しかし、それは俺が宿内にいる必要はないのだ。

外に出かけていようが監視カメラの様に宿の様子を見る事が出来るし当然物を動かす事も出来る。

それを使えば彼らと連絡取る事も可能だ。


考えを進めながらも指定された椅子に座る。

手足を縛られて暴れられない様にされる。


「で、どうするの?今日は足の爪でも剥がしながらお話でもするのかな?」

「……。」


俺の質問に相手は回答しない。

この二日で俺はもう両手の爪を切らしてしまった。

後爪の在庫は足にしかない。


「うっぷ…」


お腹に衝撃。

思いっきり腹を蹴られる。

えずく俺をよそに衛兵は質問を始める。


「貴様の仲間が街でなにやら探っている。司教から奪った物品を回収させようとしてるのか?」

「へー、そうなのかい。もしかしたら俺の無罪を晴らそうと動いてくれているのかもね。」

「さっさと吐いた方が身のためだ。お前だけでなくお前の仲間も拷問される事になるぞ。」

「はっは。君は馬鹿だなぁ。本当に君達の求めている者を彼らが回収しようとしているならそのまま泳がしていた方が良いに決まっているじゃない…いったぁい!」


顔面にシンプルなグーパンを貰い鼻から血が出る。

うーん、このままだと殺されてしまうのだろうか。

彼らが捜している物が俺の命を保障してくれていると俺は考えているが彼のやり過ぎで俺が死んでしまう可能性はある。

首に魔力操作を妨害する魔道具を付けられているので魔力による物理耐性の強化も難しい。

まあ、元々俺はそれが苦手だけど。


ナクティスじゃないがただ逃げるだけなら彼女達の手を借りずとも俺単体で可能だ。

しかしそれには折角暮らし慣れたこの街とあの宿を捨てる事になる。

出来ればそれはしたくない。


うん、やっぱりナクティス達に協力して貰おう。

格好つけて一人で解決してやるなんてやっている場合じゃないだろう。

この尋問が終わったら直ぐに連絡を取ろう。


しかし考え中に暴力を振るうのは止めてほしい。

考え事が衝撃で頭から抜けてしまう。

まあ、彼も成果なしで焦っているのかもしれない。

明らかに初日より憔悴している。

誰に焦らされているんだろうね。


その時、尋問室の扉が開かれた。

衛兵姿の彼は俺を殴っている同僚の肩を叩いて止めた。


「おい、お前やり過ぎだぞ。」

「ああ……、くっそ。分かっているよ。でも分かんだろ?さっさと見つけないとどんな辞令が来るかも分からないぞ。」

「お前、今日はもう良い。尋問は俺がやる。」


同僚にそう言われた彼は肩で息をしながら外へ出て行った。

残されたのは新たに入ってきた衛兵と俺の二人のみ。

もしかして彼は良い警官という奴だろうか。

どんな飴が来るか楽しみだ。


と期待していた俺にその衛兵は急に抱き着いてくる。

えっ?そういう飴?


「オオヤさん……。お労しいですわ…!」

「え?……もしかしてリクエラさん?」

「ええ…!わたくし、ナクティス様のご命令で馳せ参じました!」


驚いた事に衛兵姿の彼女はナクティスの家族で魔族のリクエラさんだった。


「その格好は…どういう事?」

「わたくし、自分の姿形を自在に変化出来ますのよ。」


ナクティスもだが魔族というのは俺が言うのもなんだがチート過ぎないだろうか。

全くその変装に気付く事が出来なかったし声帯すら変えて見せた彼女が本気を出せばこの世界で侵入出来ない場所は無いのではないだろうか。


「オオヤさん、先ほどの言った通り。私、ナクティス様の命令でこちらに来ておりますの。」

「ありがとね。君には関係ないのに俺を助ける為に動いてくれているんでしょ?」

「関係ないという事はございませんわ。ナクティス様の大切な人という事は私の大切な人と同義ですわ。オオヤさん、時間もありませんし手短に聞きますわ。貴方が尋問されている中で何か今回の件で重要そうな物品、または人物の情報はありませんでしたか?」

「うーん、そうだね……」


どうやらそれを聞きにわざわざ来てくれた様だ。

ナクティスの宛てはこれか。

確かに、俺に尋問されるという事は図らずもあちらの情報をこちらに開示する事にも繋がる。

しかし情報だけならこちらに来なくても俺のスキルで伝える事も出来た。

俺の決断の遅れで危険な真似をさせてしまって……いや無駄という事はないか。


「リクエラさん。俺に罪を擦り付ける為に現場にあった貴重品を置いた奴の顔を再現出来る?」

「えっ?分かるんですの?」

「俺のスキルでね。」


俺の自宅運営スキルは監視カメラの様に宿内を見る事が出来る。

それは巻き戻しすら可能だ。

だから俺の室内で悪さをした人物についても見る事が出来た。


「スキルで分かったんだけど、宿に押し入ってきた衛兵の内の一人が置いていったみたいだ。」

「自作自演という事ですの?」

「うん、でも尋問している彼らは真剣に俺から情報を聞き出そうとしている。という事はその彼はまともな衛兵ではないのかもしれない。顔の特徴は…」

「ちょ、ちょっとお待ちになって!」


リクエラさんは慌てた様子で俺の言葉通りに顔を変えていく。

俺の修正に変幻自在に顔を変えていくのは見てて面白い。

ゲームのキャラクリエイトをしているみたいだ。


「うん、眉毛はそんな感じで、……うん、かなり似てきたよ。」

「ふぅ……。ナクティス様に良い報告が出来そうですわ。」

「後、彼らに尋問を受けている中で分かった情報だけど…。」


リクエラさんに更なる情報を与えようとした時に尋問室の扉がまた開いた。

今度はなんだ?

リクエラさんは慌てて先ほどの顔に戻した。


その入ってきた男は数人の衛兵、いや服装からして衛兵ではない、

装備は明らかに衛兵達より上等な物で所作も洗礼された兵士、を引き連れて入室してきた。

シンプルだが良い仕立てをされており高級品だと一目で分かる礼装に身を包んだその人物には見覚えがある。

アルフォード・ライゼンハルト卿。

この巨大都市の領主だった。


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威風堂々とした様子で入室した彼は緩慢な動作でリクエラ扮する衛兵の方を見る。

あ、不味いな。

リクエラさんはこの都市の領主の事なんて知らないだろう。


「おやおや!アルフォード・ライゼンハルト卿ではないですか!偉大なるこの都市のご領主様が私の様なケチな盗人になんの用ですかな?」

「!?」


俺はおどけた様子で大声でリクエラさんに情報を伝える。

彼女は俺の意図を察した様で慌てて彼に最敬礼をする。


「し、失礼致しました!ライゼンハルト卿がこのような場所に足を運ぶとは……。敬礼が遅れた事をお許しください…!」


ライゼンハルト卿はその感情の無い瞳をリクエラさんから外すと俺に目を向ける。


「……まだ聞き出せないのか。」

「えっ?…あっ、はっ!も、申し訳ありません!この囚人、中々手ごわい物で…」

「尋問が足りていないのではないか?」

「は、はい?」


彼は側に立っている兵士、近衛兵から剣を受け取るとそれを片手に俺に近づいてくる。


「フレイム」


そして魔法を唱え彼の持つ剣は火に包まれる。

それはそのまま俺の足に突き刺された。

火は内側から俺の細胞を燃やしていく。


「ラ、ライゼンハルト卿!?何を!」

「尋問だ。貴様らに任せていてはいつまで経っても聞き出せそうにないのでな。」


彼は剣を引き抜いてそれを放る。

尋問室の壁に音を立ててそれは叩きつけられた。

足の刺し傷は火の熱によって塞がったが中の細胞は炭化してそうだ。


「そのまま放置していたら足は腐って落ちるぞ。神の涙を差し出せば回復魔法を処置してやろう。」

「いやあ、はっは。ご領主様のご慈悲に私、涙が出そうですよ。」

「左足も不要か。」


俺のおどけた回答に彼は一切笑みを浮かべずに脅してくる。

何となくそうではないかと思っていたが司教の盗まれた品の納品先はライゼンハルト卿だったみたいだ。

しかも神の涙か。


神の涙。

聖教会が独占している聖遺物だ。

その雫は一滴口に含めばあらゆる病、呪いを退けると言われている。

随分な超重要アイテムをこの都市に持ち込んだみたいだ。

あの無思慮な司教が持つには過ぎたアイテムだ。


今度は俺の左足に剣を突き立てる気のライゼンハルト卿。

衛兵が余裕がないと感じていたが本当に余裕のないのは彼だったのか。

態々下層の尋問室にこの都市の領主が足を運ぶなんて異常事態だ。


俺の左足が今にも切断されそうな現在、しかしこの場にはそれより不味い問題があった。

リクエラさんだった。

俺の視点からしか見えていないが彼女の背中に隠した右手がえらく攻撃的なフォルムに変化している。

ライゼンハルト卿が俺の足に剣を突き立てる前に彼の首と胴体を切り離しそうとしている様だ。

帝国の大貴族のライゼンハルト卿を殺害すればもう帝国領どころか大陸で生活する事も不可能だろう。


「ライゼンハルト卿。」

「……。」


貴族と話すのは久しぶりだ。


俺が司教を殺害したと考え拷問をしてくる衛兵やライゼンハルト卿。

逆に言えば彼らは本当の殺害犯と対立関係だという事だ。

であれば彼らと交渉出来れば今回の問題の解決の強力な助けになるだろう。

交渉事は苦手だけど俺だって最近は色んなお店の人達と商談を重ねてきている。

街のお店屋さんから領主とノーマルとルナティックぐらい難易度が違いそうだが何事も挑戦だ。


「神の涙……。それをお求めという事は誰かが質の悪い病魔や呪いに犯されているのですかね?」


彼は俺の問いかけに反応せず燃え盛る炎剣を片手に近づいてくる。


「見たところ、ご領主様自身は健康そうだ。という事はもしかしてご家族が?そういえばここ一年、星光の姫君の姿が見えないと上流階級の中で噂になっているみたいですね。冷酷無比と評判のご領主様も姫君の事となるとそうも焦りますか。」

「……黙れ。」


俺の推察は当たっていたのか彼は反応を返してくれた。


「私もこの御領主様が治る偉大な都市で生活をさせてもらっている身。その御領主様のご令嬢の為ならば私、一肌脱ぎましょう。」

「……何を言っているんだ貴様。」


俺の芝居じみた言葉の意味を理解できないのか素で領主は問いかけてくる。

少し恥ずかしい。


「神の涙がお求めなのでしょう?分かりました。お望みの品、納品の方させて頂きます。司教から奪ったのが私という訳ではありませんよ?本当の実行犯からそれを取り戻し御領主に納めさせていただきます。」

「はっ……。何を言うかと思えば、その様な言い逃れでこの場から逃げおおせると思っているのか?そんな夢物語を語れぬようにやはり両足は切り落としておくか。」

「いやいや、私をここから出せとは言いませんよ。私、実は小さな宿兼冒険者ギルドを営んでいましてね、領主様が依頼して下されば彼らが探し出してくれますよ。」

「……愚かな事を。衛兵達でも見つけることが出来ていない神の涙を貴様らが?それが可能というのはそれすなわち貴様が下手人という事に他ならない。」

「俺達は少数精鋭の冒険者ギルドなんですよ。どうせそちらも手詰まりなんでしょう?こんな所に態々貴方自身が来るくらいには」


俺は魔力操作を妨害する効果がある首輪型の魔道具を

久々に着けられたが外す事が出来て良かった。

製作者が一緒なのか決まった作り方があるのか大陸を跨いでも構造自体は以前着けられたものと一緒だった。

なので外し方も変わらない。

近衛兵達は驚愕して領主の周りを守るように囲んで立った。


手足につけられた拘束具を魔法で切り裂く。

右足は機能不全なので左足で立ち上がって伸びをする。


「貴様…」

「どうですか?数時間の連続飛行が可能な魔法使い。多種多様な精霊術の熟練者。大精霊を降霊出来るモンク、大毒蛇の首を一太刀で切り落とす剣士。ご近所の村で評判の罠師……そしてマンティコアを一撃で葬る魔族。」


俺はニコニコと笑いながら両手を広げる。


「俺のギルドは人材の宝庫ですよ。今なら特別価格で御領主様のご依頼の方受けさせていただきます。」


どんな時も前向きにが俺のモットーだ。

確かに今は逆境だが、その逆境を逆転した時程楽しく愉快な事はない。


領主の目的は俺の殺害ではない。

あくまで彼の目的は神の涙の入手である。

ならお望み通り見つけてあげよう。

それで諸々の迷惑料、ついでにリシアの治療費全てを依頼料として頂いてやる。


「貴様の虚言に…」

「さっき言った通り俺は別にここから出してくれと言ってるわけじゃないですよ。あくまで動くのは俺の仲間です。つまり現状の俺の立場は変わらない。ただ俺の仲間の捜査を邪魔せずに協力して欲しいんです。領主様に特にデメリットは無いと思いますがね。」

「刑の執行を遅らせたいだけではないのか。」

「じゃあ期限を決めれば良いですよ。」

「1週間。」


彼は人差し指を立てて俺に期限を提示した。

どうやら彼は交渉に応じてくれたみたいだ。

しかし1週間か。

ナクティス達には無理を強いるな。


「わかりました、1週間で神の涙を領主様に納品いたします。」


こうして俺は領主と契約を結び、神の涙の奪還をギルドとして請け負う事となった。


依頼者は領主。

期限は1週間。

条件は俺の独房への滞在。


冒険者ギルドの真似事を初めてから3ヶ月目に受ける依頼としては大分大きな案件だ。


俺はこれから皆に掛ける負担を考えてため息をつきつつ


さて、どのタイミングでここを出ようかな。


なんて契約違反の行動について早速思いを巡らせたのだった。





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