第4話
悪趣味全開賭博場を抜けるのにまた魔法陣が描かれている扉の前に来てそこにウェディちゃんがカードをタッチすると扉が自動的に開いた。
そしてまた通路が現れる。
俺はフロアを去る前に後ろを振り返る。
この空間、かなり広い。
俺が来たあの場所が唯一の入り口とも考えにくい。
ここは本当に都市の地下空間なのか?
俺の答えの出ない疑問をよそにどんどん先へと我が庭のように進んでいくウェディちゃん。
そしてこれまた豪奢な扉の前に立ち止まりカードをかざして入室した。
その部屋は扉からは想像出来ない随分ファンシーな空間だった。
ぬいぐるみやらなんやら可愛らしいものが沢山置いてある。
彼女は俺の手を引いてふかふかのソファに座った。
「ここ私の部屋!ここなら邪魔されずに……って誰!?」
ニコニコ笑顔を俺に向けたウェディちゃんはその時初めて後ろをついてきていたアルヴェンの存在に気付きびっくりしていた。
まあ、ここに来るまでの間一言も言葉を話してないからね。
「彼はアルヴェン、俺の友達だよ。」
「オオヤの……。ふーん、まあよろしく。」
彼女はアルヴェンと握手を求めるかのように手を差し出す。
何故だろう、彼女が誰かに触れようとする度に嫌な予感がする。
しかし、初対面の握手を強制中断させるのは失礼な行為であるしその理由が俺の不確かな予感ではウェディちゃんの気分を害するであろう。
その時扉が勢いよく開かれてその乱入者により妨害されて握手はされることはなかった。
ああ、良かったと思ったのも束の間、俺はその乱入者、スーニディさんに蹴り飛ばされて壁へと叩きつけられた。
咄嗟に魔力で物理耐性をあげてガードしたが結構痛い。
「いったぁ!」
「…!オオヤ!」
「ちょっ…スーニディ!何するの!?」
「ちっ……」
俺がそこまでのダメージを食らっていないことに不満だったのか舌打ちをして彼女は追撃をしてこようとする。
「……!」
「ちっ…、……どきなよ」
それを防いでくれたのはアルヴェンだ。
俺の前に立って彼女の進路を妨害する。
俺は乱れた服を軽く整えてから喋る。
「やあ、久しぶり、スーニディさん。いきなりご挨拶じゃないか。」
「ウェディに何をしたんだい?」
「何もしてないよ、楽しく会話していただけさ。ねぇ、ウェディちゃん?」
「う、うん!そうよ、スーニディ!私、何もされてないからオオヤに酷い事しないで!」
「……」
スーニディさんは警戒を解かないままウェディの側に戻る。
「まあ、少し驚いたけど丁度良かった。スーニディさんにも用があったんだ。」
「……なに?」
「スーニディさんはこのカードを取り戻したかったのかな?」
「……何のことだろうね。」
俺はウェディちゃんに貰ったカードを取り出して質問するがスーニディさんはすっとぼけた回答をする。
「あれ?これを取り返したいからあれだけ追剥ぎを派遣してきたんじゃないの?」
「えっ……?どういう事なのスーニディ。」
「……」
ウェディちゃんは何も知らない様で俺と同じようにスーニディさんに問いかける。
彼女が黙ったままなので質問の相手をウェディちゃんに変えた。
「ウェディちゃん、カードありがとね。でもこれってスーニディさんに簡単に人に渡しちゃ駄目って言われてたりする物だったりするんじゃないかい?」
「?、うん!言われているよ!後、落としたりしたらすぐに言うように言われているわ!」
「やっぱり、そうなんだ。だから彼女はこれを俺から取り返したかったんじゃないかな?」
「……。」
「ねえ、スーニディさん。君が何を考えているか分からないけど、過激な選択肢を最初に取るタイプなんだね。」
「何の事だろうね。」
「あれ?もしかして間違った事を言っていたかな。じゃあ、このカードはこのまま持っていていいんだね。ねえ、ウェディちゃん。」
「うん!それ使って私に毎日会いに来て!」
「ウェディ~。」
無邪気に俺の言葉を肯定するウェディちゃんの頭をスーニディさんが掴む。
「あのカード、人に渡しちゃ駄目だって言っただろぉ。無くしたのかと思ったらそこの奴に渡したと聞いた時の私の焦り様を思い出してくれぇ~。」
「で、でもオオヤにまた会いたかったし……。」
「はっはっは。君みたいな可愛い子に好かれるなんて俺は幸運な男だね。……で?認めてくれたって事で良いんだよね。」
スーニディさんは観念したかの様に溜息をついた。
「はあ……、まさかたった三日でここまでたどり着くなんてね。」
「まあ、それは君がそこそこヒント残していたからなんだけど。それで、このカードを俺が持っていると都合が悪いのかな?」
「ああ、悪いね。さっさと返すんだ。お前が小さなギルドの経営者という事は把握している。周囲の人間が不幸になるのが嫌なら…。」
「強奪、そして次の手は脅迫か。スーニディさん、幼いウェディちゃんの前だし君に言っておくよ。君は問題の解決が下手だ。」
俺の率直な指摘に彼女は青筋を立てた。
しかし俺はそのまま話を続ける。
「強奪、脅迫。そんな手より君には真っ先に出来る確実な方法があった。それはお願いだよ。素直に俺に返して欲しいと言いにくれば良かったんだ。」
「得体のしれないお前にそんな馬鹿正直な手を使う気にはなれないね。」
「正直さや素直さってのは美徳だよ。馬鹿正直というけれど、君が取った手は失敗し、俺にここに来させてしまい、君が会わせたくなかったウェディちゃんに会わせてしまったじゃないか。もしかして、君ってグレーだったり非合法な方法を使う事を賢いって思っているタイプ?」
その時、後ろから服をくいくいと引っ張られる。
アルヴェンだ。
彼の顔には言い過ぎ、煽りすぎと書いてあった。
感情表現の乏しい彼の気持ちが最近結構分かる様になってきて嬉しい。
しかし、ここは言わせてほしい。
何故なら彼女の行動はウェディちゃんの教育に明らかに悪い。
「それは全くの勘違いだよ。人を信頼する事がそんなに難しいのかな?まあ、それは事情がありそうだし何も言わないけど。こんな手段を使い続けていれば周りが敵だらけになってまともに暮らせなくなるよ。」
「とっくのとうにまともな暮らしなんて出来なくなってるよ。」
「……そっか。」
彼女の返答は冷たく、彼女、いや、スーニディさんとウェディちゃんの過去の重さを伺わせた。
「でも敵を少しは減らす努力をしてみれば?その為の第一歩に俺たちと友達になろうじゃないか。」
「は?」
「ほら、素直にお願いしてみなよ。カードを返してくださいって。」
俺は彼女の眼前にカードをヒラヒラと振ってみる。
スーニディさんの目はもう完全に人殺しのそれになっていた。
後ろに立つアルヴェンが溜息を吐くのが聞こえる。
「えー!オオヤ、もう私に会いに来てくれないの?」
会話を聞いていたウェディちゃんが不満を声に出す。
俺はしゃがんで彼女と目を合わせる。
「ごめんね、でも君の怖いお姉さんが俺にここに来て欲しくないみたいなんだ。代わりにウェディちゃんが俺の宿に遊びに来てよ。」
「めんどくさい!」
「めんどくさいか……。よし、もし来てくれたらほっぺが落ちる程に甘くて美味しいケーキを食べさせてあげるよ」
「絶対に行く!」
ウェディちゃんの了承は取れた。
後は怖いお姉さんが俺にお願いすれば良いだけだ。
「さあ、後は君が俺にお願いすれば良いだけだよ。カードを返してくださいオオヤさんって。」
「……このクソが。クソキモ男が……」
「えっ?ごめん、聞こえないな。」
「……カードヲ、カエシテ、クダサイ、オオ(バカ)ヤ(ロウ)サン。」
「はい、どうぞ。」
驚く程を感情を感じられないし、言葉に他の意図が感じられたが俺は彼女にカードを渡した。
そして俺は朗らかな顔を意識してウェディちゃんの方を見る。
「ほら、ウェディちゃん。素直にお願いした方が上手くいくしお互いに笑顔で終われるんだ。」
「うん!お願いする側が凄い屈辱的な気持ちになるっていうのは分かった!」
「……ほら、スーニディさん。君がそんな顔をしているからウェディちゃんの教育に悪いじゃないか。」
「……。」
あまりウェディちゃんに良い影響は与えられなかったみたいだ。
教育に悪いというのであればこの悪趣味な場所でかなり上の立場であるという現状自体が大問題であるけれど。
今、このタイミングでずけずけと彼女達の事情に土足で踏み入るのは止めた方が良いだろう。
その代わりに街で購入したお土産をウェディちゃんに渡した。
「スーニディさんが素直にお願いする良い子になったからウェディちゃんにご褒美だ。最近若い子に流行のお菓子だよ。二人で食べてね。」
「わあ!ありがとう、オオヤ!」
俺を警戒しているスーニディさんが毒が入っているとか言い出さないかと思ったが幸い何も言う事はなかった。
そしてついでに彼女達に最近作った俺の宿の名刺を渡した。
「後、これ俺の宿の名刺ね。住所が書いているから遊びに来てよ。」
ウェディちゃんはお菓子に夢中で名刺に一切興味がなさそうだった。
スーニディさんは汚物を見るような目で名刺を見つめた後にぽつりと言った。
「……クソスラムじゃないか。」
「違うよ、それ完全に差別だからね。そういう所も改めた方が良いよ。」
こうして、ウェディちゃんと出会ってからの一連のゴタゴタは解決した……
かに思えた。
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