第2話
「それで、リシアが朝から拗ねている訳か。」
「うん、今日は口も聞いてくれないよ。」
次の日の朝、カイドー達、そして俺が昨日怒らせてしまったリシアとテーブルを囲んで朝食を食べていた。
リシアは習慣でご飯は食べてくれているが俺とは一切口を聞いてくれない。
カイドーは頭を掻いて唸る。
「まあ、オオヤが二人の問題って言ってるんだから俺は何も言わないが……。あんたの事だ、手詰まりって訳じゃないんだろ?」
「まあ……、まあね。」
俺のプランを実行するにはお金が必要なのだが、詳しい事情を話して彼らに無理をさせたくないので話はしなかった。
今のペースでも3か月もあれば【手術室】の購入は可能に思える。
しかし、もう3か月もリシアを待たせるというのは彼女の心情を考えると余りにも長すぎるだろう。
俺を出禁にした教会幹部の影響がない遠方のプリースト級が在籍している教会に行くとしてそれにもどれ程の期間が掛かるか不明だし、今のタイミングで長期間宿を不在にするのは駄目だ。
少なくとも冒険者ギルド業が軌道に乗り、俺の今の業務を任せられる誰かを雇うまでは。
駄目だ、思考がマイナスになっているな。
前向きに楽しく生きるのが俺のモットーだ。
俺は気持ちを切り替えるつもりで話題を変えようとした。
懐から昨日ウェディちゃんから貰ったカードを取り出す。
結局これの使い道を聞くことが出来なかった。
「そういえば、皆、これって何か分かる?」
「なんだそりゃ?」
レイダリーがジロジロとカードを見て疑問を口にする。
カイドーも肩を竦めており彼も何か分からない様だ。
アリヤースは俺の手元からカードをひったくりまじまじと見る。
「んー……、これは……きっと何かの会員証ね!」
「そんな自信満々に言う程の事か?どこの会員証かって話をしてんだろ」
淡々とアリヤースの推理に突っ込みを入れたカイドーが怒鳴られているのを見ながら考える。
俺なんかよりよっぽど街の施設を利用している皆が知らないのか。
一般では出回っていない物なのかな。
ウェディちゃんはこれがあれば私に会いに来れると言っていた。
という事はどこかのメンバーズカードである可能性が非常に高い。
俺はリシアにも質問をする。
「ねえ、リシア。君はこのカードが何か分かったりしない?」
「………。」
「ねえ、そんな怒らないでよ。時間はかかるかもしれないけど絶対に約束は守るからさ。」
「………。」
こうまで完璧に無視されると俺も傷付いてしまう。
「オオヤを無視してんじゃないわよ!朝から辛気臭い顔してないで、ほら貴方も会話に参加しなさい!」
アリヤースは持ち前の率直さで完全に会話を拒絶しているリシアの顔にカードを押し付ける。
それを最初リシアは鬱陶しそうにしていたがカードを視界に入れた瞬間、目が見開いた。
「あ、あなたこれをどこで……。」
「えっ?リシア、これが何か知ってるの?」
彼女はアリヤースの手からカードを取り信じられない様な顔で見ていた。
「昨日、街であった女の子の話をしたでしょ?その子から貰ったんだ。それを使えばその子に会いに行けるって言われたんだけど、どこで使えば良いか分からないんだ。リシア、知ってる?」
「……生憎、知らないわね。」
彼女はあからさまな嘘をついたがそれを追求する気にはなれなかった。
彼女の態度を見るに答える気はなさそうだ。
しかし、ただならぬ興味があるようでいまだにカードを手に持ったままだ。
俺は彼女の手からカードを取る。
「あっ……」
「そうか、誰も知らないのか。街で聞いてみようかな。」
カードをポケットに仕舞う。
その間リシアの視線はずっとカードにあった。
間違いなくこのカードがどういった物か知っており興味があるようだった。
表の仕事をしているカイドー達が知らずにリシアが知っている事から既にこのカードからきな臭い何かを感じる。
探ると藪蛇になりそうな気がするがあの可愛らしい少女から貰ったものだ。
彼女に悪意は感じなかった。
別に何かしようと思っているわけでもない、
ただウェディちゃんとの約束を守るだけだ。
リシアの態度も気になるしやはり今日街に出た時についでに探ってみよう。
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などと軽い考えで商品の販売のついでに取引先に聞いて回ったが成果なし。
今は宿に向けて馬車を走らせていた。
「ん?」
前方に人を倒れているのを見つけた。
何かデジャヴを感じるが馬車を停める。
馬から降りて近づいて見てみると、普通の成人男性に見える。
俺は茂みから飛んできた石をキャッチしながら男性を観察していた。
成程、これは罠か。
別に珍しくもない古典的な手だ。
茂みから馬車強盗が1、2の……倒れていた奴も含めれば六人、が現れた
中々多いな。
「ケツの毛までむしってやるけど命までは取らねぇから大人しくしな。」
「ああ、優しいね。ひと月ちょっと前までは命を取りに来る人が多かったから君みたいな人に会えて嬉しいよ。」
ザナークの問題が解決してから久々の強盗だ。
彼らは堂々と刃物を取り出している。
一応この通りだって街中のはずだがなんて治安が悪いのだろう。
俺はこの街の治安状況にため息をついてから彼らに忠告した。
「魔法耐性を上げていた方がいいよ。」
「は?」
俺は上空を指差す。
悪漢たちもつられて上を見る。
「えっ?…げべゃ!」
そして上空から降り注ぐ魔力で生成された矢によって貫かれ地面に倒れ伏した。
命に別条はなさそうだ。
「助かったよアルメー!」
俺が上空に向けて大声でお礼を叫ぶ。
するとかなり上空で旋回してた彼女が自由落下の様なスピードでこちらに落ちてくる。
そして地面に衝突する前に着地ポイントに風のクッションを発生させて勢いを殺して俺の目の前に降り立った。
「怪我はない?」
「うん、何かされる前に君が仕留めてくれたからね。ありがとう。」
「ギルドマスターの貴方を助けるのは当たり前、お礼は不要。」
「当たり前ということはないよ。」
俺は彼女の触り心地の良い頭を撫でる。
一見無愛想に見える彼女だが抵抗せずに気持ちよさそうに目を細めている。
「あんな遠距離から魔法を当てるなんて流石だね。」
「ん……、オオヤの買ってくれた遠見双眼鏡のおかげ。」
彼女は首から下げた双眼鏡をアピールする。
獣人は通常魔法の扱いが苦手である。
しかし、彼女は一見見た目は鳥の獣人だが実際は黒魔術師によって魔獣と肉体と魂を融合されたキメラである。
なので彼女は俺の宿でナクティスの次に体に内包している魔力の量が豊富だ。
彼女は奇跡的に肉体も魂も安定しているが時々暴走をしてベースの魔獣でも人間でもない何かになる危険性があった。
俺が宿にスキルによって付与した鎮静効果によって今はそんな暴走をすることもなくなった。
以前は上記の事情から魔法を使うことに忌避感があったようだが状態の安定をしてからは魔法の勉強にも意欲的だ。
魔法とその翼によって高空域での長時間活動が可能で、魔法による遠距離攻撃の手段も豊富のアルメー。
更に俺は宿の効果で冒険者全員に幸運上昇も与えており遠距離攻撃の命中率もそれで向上しているだろう。
自分の仲間だから贔屓目に見ている部分もあるかもしれないが、屋外の戦闘で彼女に勝てる人間は中々いないと思われる。
今日は魔術書を買うために一緒に街に来ていた。
俺の宿に所属している冒険者とは仕事がない時は一緒に街に出掛けることが多い。
「またトラブルに巻き込まれてるの…?」
「うーん、どうだろうね。身に覚えがないし、ただの野盗にも見えるし。まあ、一つ分かっていることは……」
「…?」
「彼らを衛兵に渡すためにまたこの道を戻らなきゃ行けないことかな。」
げんなりとした顔のアルメーと協力して野盗達を縛って荷台に乗せて街に戻ったのだった。
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