第3話

ナクティスと知り合ってから2ヶ月が経とうとした頃。

俺の宿屋経営は軌道に乗り出していた。

スキル画面を出現させる。


【銅貨:324枚。銀貨:98枚。金貨:1枚。クリスタル硬貨:0枚。】


まるで預金通帳を見てニヤける様に俺はスキルの収入の欄を見てニヤニヤする。

これが2ヶ月前に客が来ないと困っていた宿屋の金庫の中身だろうか!

ちなみに銅貨100枚で1銀貨、銀貨100枚で金貨1枚のレートだ。

そして両替はこのスキルでは出来ない様でちゃんと都市の両替商に手数料を支払ってしなければならない。


「オオヤ!帰ったぞ!」

「おっ、おかえりー。ナクティス。」


ナクティスが帰ってきたのでスキル画面を閉じてカウンターから重い腰を上げて彼女を出迎える。

彼女から荷物を受け取って彼女の部屋の中に置く。


「今日もお疲れ。まずは風呂かい?」

「ありがとうオオヤ。ああ、すまないが汗が気持ち悪くてな。先に風呂を頂こう。」

「オーケイ。風呂は沸いてるよ」


彼女とも慣れたものでいつの間にかさん付けはしなくなった。

そして告白しよう。

俺は宿屋が軌道に載ったと宣言したが、実の所いまだにお客さんはナクティスのみだった。

風呂場に向かっていく彼女を遠い目で眺める。


そう、先ほどの宿屋の収入は全て彼女との取引によるものだ。

彼女は俺との契約後。もう既に複数回に渡りここに様々な冒険で得た物品を持ち込んでくれた。

俺はそれをどうにかこうにかツテを辿って捌いていった。

その結果があの収入欄だ。

なので、ハッキリ言ってなにも自慢出来るものではない。

ナクティスが俺を見限ればすぐに破綻する宿屋である。

そんなものは健全営業とはいえない。

彼女にさん付けをしなくなったが気持ちとしては様付けをしたいぐらいである。

それ程にこの宿屋はナクティスに依存している。

呑気に金勘定をして鼻の下を伸ばして良い状況ではない。


現状を見つめ直して自己嫌悪をしていたらいつのまにかナクティスが風呂から出てきていた。

熱った体と薄ら濡れた髪が艶やかだ。

彼女は美しい顔を朗らかな笑顔で歪ませた。


「気持ちいい風呂だった!ありがとう!

それと夕飯前に見てもらいたい素材があるんだ。」

「うん、おかえり。勿論いいよ。」


彼女はこの2ヶ月でかなりこちらに心を許してくれた様でシャツとショートパンツという軽装で出てきた。

俺とて男なので正直目のやり場に困るが変に意識していると思われるのも嫌なので指摘出来ないでいる。


彼女は素材を入れた袋をテーブルに広げる。


「ギルデンワームの触角、シャドウリーフ、それとクリスタルバタフライの翅だ。」

「今回も大量だなぁ………。うん、分かった。多分売り先を探せると思うよ。それで申し訳ないんだけどまた後払いで良いかな?必要だったら前金を渡すけど…」

「勿論問題ない、前金も不要だ。オオヤのおかげで最近は余裕があるんだ。」

「そう言ってくれると助かるよ。しかし、こんなに良い素材を受け取り拒否するなんてやっぱりナクティスの冒険者ギルドは見る目がないね。」

「う、うむ。全くだ。」


ナクティスは気まずげに目を逸らしている。

俺は彼女の姿に苦笑する。

態々聞いてはいないが彼女は最近は冒険者ギルドに持ち込む前にこっちに持ってきているみたいだ。

俺としても助かってるし藪蛇に突っ込む必要はあるまい。


「さて、と。少し早いけど夕飯の準備でもしようかな。部屋でゆっくりして待ってて。」

「いや、いつも通りここで待たせてもらう。1人で部屋にいても退屈だからな。」

「はは、分かったよ。」


彼女は最早勝手知ったるという感じで本を読み始める。

俺が彼女にお勧めして貸した本だ。

その様子を見ると先程の自己嫌悪が幾分か和らぐ。

この宿は、今はまだたった1人だが誰かの居場所になれているのだ。


軽く伸びをしてカウンター奥のキッチンに向かおうとした。

その時、乱暴に入り口の扉が開かれる。

扉に備え付けられた鈴が耳を煩わせる。

ナクティスもその音に過剰に反応して椅子を倒して立ち上がる。


「侵入者か!?」

「いや、お客さん、じゃないかな?」


薄々感じていたがもしかしたら彼女はここが宿屋だということを忘れているのかもしれない。

戦闘体制を取る彼女をたしなめる。

しかし、自分で言ったものの客というわけではなさそうだ。

人数は4人。

扉を乱暴に開けたのは先頭に立つ何故か見ているだけで苛立つ口髭の生えた男。

その脇に3人。

口髭の男以外は冒険者だろう。

武器を携えている。


「いらっしゃい、宿泊かい?」

「ここに魔族の女がいるだろう!」


口髭の男が挨拶もせずに怒鳴り散らかしてくる。

いるも何もこの口髭の目にも彼女の姿は写っているはずだけど。

形式的に聞いただけだろう。

俺はすっとぼけた顔をして答える。


「えっ?いやあ、知らないなぁ」

「ふざけるな!そこにいるだろう!」


口髭の男は更に声量を上げて怒鳴り散らかす。

最初から聞くなよ、というツッコミは我慢する。

ナクティスは目を見開いて自身を指差している口髭の男を見ている。


「ザナーク、何故ここに。」

「なぜ?恩知らずの野良犬を罰しにわざわざこの犬小屋まで来てやったんだよ!」

「犬小屋…だと?」


犬小屋というワードを聞いた瞬間彼女の髪の毛が逆立ち純黒の殺気が体から溢れ出た。

それを感じ取った男の気迫が少し弱くなる。

しかし、自分の周囲に3人の冒険者がいる事を確認してからまた胸を張って威張り散らかす。


「あ、ああ!そうだ!てめぇ、ギルドに納品するべき素材を勝手に売り捌いてんだろ!」

「犬小屋と言ったことを訂正しろザナーク。」

「そんな事はどうでもいい!俺の質問に答えろ!」

「犬小屋と言ったことを訂正しろ!」

「はいはい、落ち着いて。」


どちらも一歩を譲らないので俺はナクティスの肩を叩いて落ち着かせる。

俺は彼女と口髭の男、ザナークの間に立つ。


「ええっと、ザナークさん?話が見えてこないんだけど、何が言いたいのか落ち着いて教えてくれない?」

「お前には関係ねぇよ!」

「いやいや、関係あるでしょ。ここは俺の店だし。それに彼女から受け取った素材を売ったのって俺だからね。」

「…なに?」


ザナークは不躾に俺の事を下から上に観察してくる。

そして俺の装いから大した相手ではないと判断したのかあからさまにバカにした様に鼻を鳴らした。


「なるほど、お前か。自由の盟約に喧嘩売った馬鹿は。」

「ザナーク…、貴様殺すぞ」


更にドス黒い殺気を出すナクティスを押さえる。


「喧嘩を売ったとはまた随分な言い方じゃないか、ザナークさん。」

「ああ?そこの野良犬はな。自由の盟約に所属している冒険者なんだよ。しかし、ここ最近とんと寄り付かなくなりやがった。死んだかと思ってたら素材持ってギルドにも寄らずにどこかに行っているって話を聞いたんだよ。」

「へー、野良犬も冒険者にするなんて流石自由の連盟だなぁ。でも野良犬を探しているなら別の場所を探した方がいいんじゃない?」

「そこの女の事だよ!」

「じゃあそう言いなよ。俺には野良犬じゃ伝わらないよ。」


ザナークは舌打ちをする。


「てめぇ俺を舐めてんのか?俺は自由の盟約のギルド員だぞ?」

「別に舐めちゃいないさ。そして教えてあげるよ。俺が彼女に提案したんだ。素材を買い取るよって。」

「おい、やっぱりお前舐めてんだろ。ゴミ宿屋のカスごときが人様の人間様に役立つ様に訓練した野良犬を勝手に掠め取るなんてよぉ!」


ザナークは怒声をあげて俺の胸ぐらを掴んだ。


「ザナーク!」


後ろから高純度の魔力が練られているのを感じ取る。

ザナークと同じ様にナクティスも我慢の限界を迎えた様だ。

彼女に反応して冒険者3人も武器を構える。


「おい!お前ら、殺しはするなよ!まだそこの野良犬には利用価値があるんだからな!」


一触即発の空気になる。

なので俺は武器を構えた冒険者達の肩を宥める様に後ろから叩いた。


「まあまあ、落ち着いて。店の中で暴れるのはよしてよ。」

「「「!?」」」


ザナークは先程まで胸ぐらを掴んでいた相手が突然いなくなりつんのめる。

そしていつのまにか背後を取られていた事に戦慄した顔でこちらを見る。

奥にはポカンと呆けた顔をしているナクティスがいる。


「オオヤ…、今一体何を…?」

「喧嘩腰で話すのはやめて建設的な話をしようか。色々誤解もあるみたいだし。席についてくれ。美味しいお茶を入れてあげる。後、ナクティスさんも着替えてきな。」


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「粗茶ですが…」


テーブルを挟んでナクティスとザナークが相対し俺はその中間に立った。

ザナークの護衛で来ている冒険者3人も近くのテーブルに座っている。

ザナークは明らかにイライラしており激しく貧乏ゆすりをしている。

ナクティスも敵意の籠った目で彼を見つめている。


「じゃあ、ザナークさん。改めて教えてくれない?何の用事で来たのかな?」

「さっき言ったろうが!そこの魔族の女が素材を俺に持ってこないで勝手に売りさばいている件についてだ!」

「成程ね。ザナークさんは会計係だっけ?」

「ああ、そうだ!あの自由の盟約のな!」

「本店のじゃないけどねぇ………。あら、ごめんなさい。」


ザナークが威張り散らかすのに冒険者の内の1名から揶揄する様な言葉が出てきた。

彼がジロリと睨むと彼女は肩をすくめて黙った。

冒険者達は別にザナークに協力的というわけでもなさそうだ。


「へー、凄いや。でも君の立場はともかく。話がおかしくないかな?冒険者ギルドに所属していようが素材を冒険者自身で売るのは自由の筈でしょ?指定依頼を受けたというなら別だけど」

「ふん!暗黙の了解って言葉を知らねぇのか?所属のギルドに背くような真似が許されるわけねぇだろうが。だからこうやって規律を乱す奴は取り締まる必要があるんだよ。」


俺も冒険者だったが、確かにギルドを飛び越えて冒険者自身の裁量でやり過ぎるのはギルドに良い顔はされない。

しかし素材の納品程度の事でギルド員が出張ってくるのは異常だ。


「背くってのは言い方が過剰だね。別に冒険者が知り合いに素材を譲ったり何かはよくある話だろ?当然自分自身で使う場合もある。手に入れた冒険者にその物の所有権があるんだからね」

「はっ、だがその魔族はギルドに素材を一切持ってこないでお前に売っぱらったんだぞ?冒険者が勝手にそんな事をするとこちらも困るんだよ。」

「それは君の所のサービスが悪いからだろう。」

「なに?」


俺の指摘にザナークは心底不愉快な顔をした。

俺はそれを無視してナクティスの方を見る。


「ナクティス、君は彼に素材を持ち込んだら支払いを遅らされたり値段がつかないって言われたんだよね?」

「ああ、そうだ。」

「ザナークさん、俺も冒険者だったことがあるけど、素材の納品は即時払いのはずだろう?それに値段がつかない素材を彼女に返さないのもおかしいじゃないか。」


ザナークは苦い顔をする。


「てめぇは知らねぇかも知れないが即時払いが出来ないケースもあるんだよ。素材を返さないのは魔族なんぞに危ない物を持たせておいて外で問題を起こされたら敵わんから没収しただけの事だ!」

「ふーん、そのケースってなんなの?クリスタルバタフライの翅の即時払いを拒否したんだろ?」

「………。」

「そこで黙らないでよ。ザナークさんが言ってる事嘘だと疑っちゃうじゃん。」

「う、うるせぇ!カスが!………クリスタルバタフライの翅はその時たまたま在庫が余ってたんだよ。今後の需要も読めなかったから値段が決められなかったんだ。」


大分苦しい言い訳だ。

クリスタルバタフライの翅は生息地域の関係で希少素材の筈だし、ギルドが素材の金額を決められないほど取引実績が少ない物では無い。

言い訳をするなら安すぎる値段ではなく適正な価格で取引をしたかったと言えなくもないがそんな彼女を思い遣っての決断では絶対にないだろう。

だが俺はあえてそこには突っ込まない事にした。


「へぇ、そうかい。じゃあ俺が彼女の素材を売り払うことには何の問題もないじゃないか。」

「なんだと?」

「だって売るのに苦労したり売り先がない素材を彼女は俺にくれてるだけでしょ?なんでそんな事でわざわざ冒険者を連れてきてまで乗り込んできたのかな?」


俺は彼女が俺に渡してくれた袋からクリスタルバタフライの翅だけを取り出して見せる。


「ほら、彼女が持ってきてくれてるのはザナークさんが言ってるみたいなギルドにとって不要な素材だよ。こんなもの持ってこられても困るだけなんでしょ?じゃあ良いじゃないか。」

「て、てめぇみたいな市場の適正価格が分かってないやつに素材を売られると市場が荒らされるんだよ!俺らのギルドのテリトリーを荒らすことは喧嘩売ってんのと同じだろ!それをギルド所属の冒険者が手助けしてんのはギルドを裏切ってんのと同じだ!」

「ああ、それなら安心していいよ。俺が売った相手はその素材が手に入らなくて困ってたって言っていたよ。自由の盟約の売り先は素材が余っているって言ってたんだろ?じゃあ君の所と俺の取引先は全く被ってないよ。それに俺は多分君のところより安い値段では取引してないさ。クリスタルバタフライの翅を30束納品して後日払いで銀貨10枚以下の支払いだったと彼女から聞いてるよ。一般的な手数料が20%と考えても俺なら銀貨50枚は彼女に渡せる。つまり…」

「てめぇ!本当に潰されたいのか!」


ザナークは俺の話を遮ってテーブルを強く叩いて恫喝してくる。

ナクティスが無言で武器に手を伸ばす。

俺は彼女に目配せして微笑んで落ち着かせる。


「落ち着いてよ。俺はただ大陸中に拠点を持ち販路も広大な大ギルドの自由の盟約が素材を捌くのに苦労してるみたいだから代わりに俺が捌いてあげたって言っただけじゃないか。本当の事を言っただけだよ。」

「………よく分かった。おい、お前オオヤとか言ったな?」


俺のあからさまな煽りにザナークは静かに口を開いた。


「てめぇは選択を誤った。そこの野良犬の道連れでお前は終わりだよ。気をつけるんだったな、自由の盟約に歯向かって無事だった奴は存在しねぇ。魔族に入れ込んで破滅するなんざ滑稽だな。」

「オオヤは関係ないだろう!彼に手を出したら貴様を殺してやるぞ!」


ナクティスは俺に被害が及ぶことが許せないのか大声でザナークを威嚇する。

彼はそれを気にせず席を立ち冒険者達に目配せをする。


「おい、行くぞ。」

「折角なら泊まって行きなよ。俺の宿は寝心地最高だよ?」


ザナーク達は俺の軽口を無視して外に出て行った。

彼らが出て行った後に俺はホッと息を吐く。

俺とザナークが話している時にずっと相手を射殺す様に睨んでいたナクティスも椅子にもたれかかって疲れた様子だ。


「ごめんね、ナクティス。勝手に色々言っちゃって。」

「いや、私は問題ない。というよりオオヤ、すまない…。私のせいで貴方を巻き込んでしまった。」


彼女は悲痛な顔をして俺に謝る。


「俺の事なら全然問題ないさ。それより重要なのは今後の君の身の振り方だ。…あっ、その前にしゃがんで衝撃に備えて。」

「なに?」


俺が彼女に注意した数秒後フロントが真っ赤に染まる。

それは宿に迫った火球によるものだった。

火球は宿屋に着弾し大きな音を立てる。

そして立て続けにもう数回火球が飛んでくる。

それに伴って外から下品な笑い声が聞こえる。


「はっはははは!気をつけろと言っただろ!自由の盟約に歯向かって無事だった奴はいねぇってな!もっとまともな所に宿を建てるんだったな!現行犯じゃなきゃお前らみたいなカス相手に何しても俺は裁かれねぇんだよ!いや、現行犯だとしても大した罰はねぇさ!はははははは!」


まあ、確かに彼の所のギルドと俺みたいな弱者宿屋を比べたら社会的信用度は彼らの方が圧倒的に上だろう。

俺が司法に訴えても無駄な可能性が高い。

悲しいかなこれが大ギルドと零細宿屋の差だ。


「ザナアァァァァァァク!!」


ナクティスが激昂して怒声をあげる。


「落ち着いてナクティス。」

「落ち着いていられるか!あなたの宿屋が!」

「だから落ち着いてって、ほらなんともないでしょ?」

「………えっ?」


頭に血が上った彼女を宥める。

そして彼女は気付いた。

宿屋は火球によって全く壊れておらず宿の室内にも何の影響を及ぼしていないことを。

俺たちも当然の様に無傷だ

外では火が燃え盛っているが可燃物が無いためすぐに消えた。

窓から外を見ると唖然としているザナークと冒険者が立っていた。

俺は外に出てわざとらしい満面の笑みを浮かべる。


「やあ、酷いじゃないかザナークさん。宿に花火を打ち込むなんて。営業妨害だよ。火事になったらどうしてくれるんだい?」

「な、かっ、てめぇ何をした…!」

「何かしたのはザナークさんじゃないか。」

「まさか…てめぇ、スキル持ちか!?」


正解。

俺のスキル、自宅警備スキルは俺が自宅と認定した所に様々な付与効果をもたらす。

その中でも一番俺がお世話になったのは不壊効果だ。

俺の宿はあらゆる攻撃を無力化する。

宿に傷をつけられるのは俺だけだ。

そして他にも自宅内なら俺はあらゆる場所に瞬間的に移動できる。

先程冒険者達の裏に回ったのはその能力によるものだった。

だがわざわざそれを彼に教えるつもりはない。


「いやぁ、何のことかな?」

「てめぇ…!スキル持ってるからって調子に乗ってんのかもしんねぇが。俺らのギルドにはスキル持ちなんぞ掃いて捨てるほどいるんだぞ!俺らに歯向かうってことはそいつらに四六時中狙われることになるんだ!」

「ザナーク、貴様…!」

「へぇー、そりゃ怖いなぁ。本当にザナークさんがそんな怖い人たちを動かす事が出来ればだけど。」

「…!」


俺の指摘にザナークは虚を突かれた顔をした。

やっぱりか。


「オオヤ、それはどう言うことだ?」

「えーっとつまりね、彼はさっきから偉そうに俺たちとか言ってるけど実際は…」

「こ、これで終わったと思うなよ!お前ら行くぞ!」


俺の口から出る話を恐れたのかザナークは冒険者を連れて去っていった。

あの冒険者達も彼に騙されて連れてこられただけみたいだな。

俺は天を仰いで今度こそ深くため息をついた。


「はぁ〜、疲れた。」

「オオヤ、教えてくれ。先ほどの話はどういう意味なんだ?」

「うーん、………取り敢えず夕飯の準備していい?食べ終わったら話すよ。」


こうして俺はナクティスと出来た縁により面倒臭いギルドと敵対することとなった。

俺は普通に宿屋経営したいだけなのになぁ。

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