第4話 放課後
「あー星5ダンジョンには入れないぞ」
その一言に絶望した。
始業式をやった放課後。始業式や連絡事項なんかの雑事をちゃちゃっと終わらせたて、その足で冒険者組合へと向かった。
冒険者組合は都内の高層ビル丸々1つを使用しており、さながら巨大企業と同じ様相を呈している。いや、事実そこら辺の巨大企業とは比べ物にならない規模を有している。
そこのダンジョン受付に行き、この世界の勇者とやらが攻略した星4ダンジョンに行きたいと言ったらああ言われた。
「そもそもお嬢ちゃん冒険者じゃないだろ。保険証と学生証見せて貰ったけど、お嬢ちゃん登録すらしてないじゃないか。冷やかしなら返ってくれ。皇高校の生徒がこんな所で油売ってるんじゃないぞ」
「いや、それは……!」
反論しようにも、受付のおじさんが言ってることが100%正しい。そもそも登録してないことを忘れていきなり話しかけたのが間違いだ。
「すみませんでした。また来ます……」
「ちょっと待ってくれるかい?」
私が帰ろうとした瞬間、受付のおじさんの後ろから人当たりの良さそうな顔をした若い男性が顔を出した。若いと言っても私よりかは若くないけど。
「はい、なんでしょうか」
「僕のこと覚えてないかい? 一条さんの所の会食で何回か会ったことがあると思うんだけど」
「あー確か……宮脇さん……でしたよね?」
確かに言われてみれば見覚えがある。冒険者組合の何かしらの偉い人だった気がする。
「そうそう! やっぱり一条さんの娘さんだよね。今日はどうしたんだい?」
宮脇さんに聞かれたので、包み隠さず素直に答える。
私の立場を知ってる宮脇さんからすれば、この受付の人に責任を追求しなければいけない状況かもしれないのだ。素直に私が悪いということを言わないと受付の人が可哀想なことになってしまうかも知れない。
「私が冒険者登録してないのにダンジョンに入りたいって言ったんです。無理を言ってしまいました」
「そうだったんだね」
宮脇さんはそこで少し考えると、良いことを思いついたとばかりに明るい表情をして口を開いた。
「そうだ鮫島くん。ここで彼女の冒険者登録してあげてよ。確かそっちの業務もしたことあるよね?」
「は、はぁ。でもここは登録窓口では……」
「良いから良いから、誰も文句は言わないよ」
「……分かりました」
宮脇さんはそれだけを言うと、ニコニコ笑顔で手を振りながら裏に戻っていってしまった。
「嬢ちゃん一体何者なんだ? あの宮脇さんがあんだけニコニコして対応するのは珍しいぞ」
「いえ、少し知り合いなだけです」
「そうかい。まぁ良い。じゃあちゃちゃっと冒険者登録しようか」
「お願いします」
受付の人、もとい鮫島さんは「ちょっと待ってろ」と言うと、裏に行き、1分足らずで戻ってきた。
「これが登録の書類だ。必須項目には二重丸が付いてるから、そこだけは最低限埋めてくれよ。それ以外は自由記載だ」
「分かりました」
説明を受けて紙を見る。
まず初めに、冒険者活動において軽症・重症問わない怪我や、死亡についての責任は冒険者組合は取らない。という事が難しく長ったらしく書かれていた。
まぁそれはそうだよね。一人ひとり責任を取ってたら、冒険者組合でも対応できなくなる。その代わり、ランクが上がればその分手厚い保険だったりに加入できるらしいから、まぁ今は良いや。
次に冒険者スタイルと言う項目があった。
例には前衛や後衛、索敵、回復なんて項目があったが、私はなんて書けば良いんだろう。今は身体強化しかないけど、前世では普通に全部できた。索敵も前衛も後衛も回復も支援もなんでも全部。
全て、でいっか。
そしてその下の項目を見ると、良く分からない項目があった。文章での記入らしい。
活動方針?
「すみません。活動方針ってなんですか?」
「それはあれだな。1人で活動するか、パーティを組みたいか、それともクランを作っちまうか。後は積極的に最前線攻略を目指すのか、浅いところで永遠戦うのか、研究のために活動するのか。なんて感じだな」
「なるほど。分かりました。ありがとうございます」
じゃあ書くことは簡単だ。
ソロ、攻略。っと。
それで次の項目達は、一般的なお役所なんかで書く項目達だった。
名前、年齢、住所。とかそこら辺。死亡判定とかの時に使うんだとか?
「はい、書けました」
「おう、ちょっと待ってろ。確認するからな」
鮫島さんは私が渡した紙を見ていくと、段々と険しい表情になっていった。
「嬢ちゃん。悪いことは言わないから書き直したほうが良いぞ」
「どうしてですか?」
「この紙は、冒険者への仲間の斡旋のためにも使われてるんだ」
「はい」
「それでだ、あの勇者様でも念には念を重ねて星3ダンジョンでもパーティで攻略している。それは一人での攻略がそれだけ危ないからだ」
「はい」
鮫島さんの言っていることは非常に正しい。1人で魔物の出る場所に赴くなど、注意しなくちゃいけないことも増えて、気が休まるタイミングがない。そうなると人間はミスを起こしてしまうものだ。
「だから冒険者組合は冒険者と冒険者を繋げる活動をしている。冒険者スタイルだったり、活動方針を書かせてるのはそのためだ」
「なるほど。良い制度ですね」
冒険種の死亡率を下げる良い取り組みだと思う。でもそれがなんで私の書き直しに繋がるんだろう?
「だから嬢ちゃん、見栄を張って『全て』『ソロ』『攻略』と書くのは辞めておけ。後で冒険者の斡旋がされなくて、仲間集めに困るのは嬢ちゃんだぞ」
「あーなるほど」
そういうことか。鮫島さんは私が自分を大きく見せようとしてこう書いてると思ったのか。
宮脇さんのこともあるし、親の権力を傘に自分もでかい顔をしたいお年頃だと思われたのかも知れない。
「いえ、大丈夫です。誇張してる訳でも嘘って訳でもないので。勇者とかいう人は確かに弱いので、パーティを組まなきゃ危ないですよね。でも私は魔王種でも出ない限りソロで大丈夫なので安心して下さい」
「お前あんまり大きな声でそういう事を言うな! 俺は別に勇者ファンじゃないから良いものの、ここには多いんだからな過激ファンが!」
私が精一杯安全性を説明しようとすると、鮫島さんが顔を受付から突き出してそんな事を言ってきた。
過激ファン。たしかに危ないわね。
「すみません。とにかく、私は大丈夫なので、そのまま登録して下さい」
「はぁ……たく、分かったよ。けど一応俺の方でも嬢ちゃんに合いそうな奴を探しとくからな」
「……分かりました」
ここで本当に要らないです。と言っても意味が無さそうだったので、静かに好意を受け取っておく。紹介されても受けとらなければいいだけのことだ。
そこから冒険者カードが出来るのを数分待つ。スマートフォンを見てればあっという間だ。
スマートフォンで友達のSNS投稿を見て時間を潰していると、鮫島さんの太い声で呼ばれる。
「ほら嬢ちゃん、出来たぞ」
「ありがとうございます」
冒険者カードはクレジットカードと殆ど同じ見た目をしたカードで、鉄のように硬い。
「嬢ちゃん、勿論能力は発現してるんだよな?」
「はい、してます」
「じゃあ何かしらの能力で良いから、そのカードを持ちながら使おうとしてくれ」
「分かりました」
カードを持ちながら、身体強化(闇)を発動する。そうすれば全身に力がみなぎって……あれ?
発動しないことを不思議に思いながらカードを見ると、銀色の鉄のような見た目をしていたカードが真っ黒に染まっていた。
「ほう、嬢ちゃんは闇属性なんだな。これで嬢ちゃんの魔力とカードが結びついたから終わりだ。失くすなよ。あ、それと、後ろの冒険者IDで冒険者専用サイトに入れるからな。詳しくはこの資料を見てくれ」
「分かりました。ありがとうございました」
そう言って資料を受け取って受付を後にする。
「闇属性じゃない能力を使えば色が変わるのかな?」
そう思ってカードを持ちながら身体能力(無)を使う。変わらない。
登録する時だけの一度きりってこと? そうなると私は冒険者組合では闇属性ってことになったのかな?
「まぁいっか。帰ろう」
自宅への帰路につき、夕焼け空を眺めながらステータスを開く。
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【名前】 一条 雫
【年齢】 16
【称号】 神格者(封・隠)、女神の寵愛、転生者(隠)
【冒険者ランク】 F
【保有能力】 精神強化Lv3、身体強化(無)Lv3、身体強化(闇)Lv1、思考加速Lv3、演算領域拡張Lv2
【適性属性】 無、火、風、光、闇
【次回解放条件】 星1ダンジョンに入る
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「あ、ダンジョンへの進入許可貰ってない」
気づくも、もう自宅付近。
今日はそのまま溜息を付いて、明日に仕切り直すことにした。
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