第3話 友人

「おはよう雫ちゃんー!」

「おはようあずさ


 教室に入ると、今年も当然同じクラスになった西園寺さいおんじ あずさが笑顔で出迎えてくれる。

 身長153cmの癒やし系で、この幼さを感じるボブヘアーから繰り出されるこの笑顔には癒やされる。


「雫なんか疲れてない?」

「いや実はさ――」


 周囲の人に聞かれないように、梓の耳に口を近づけて能力が発現したことを言う。


「嘘っ!」

「ちょっと声大きいよ!」

「あ、ごめん……! でも、どんな能力なの?」


 私に怒られて小さくした声で梓が聞いてくる。能力が発現したとなれば聞きたいのは当然だ。


 でもなんて答えれば良いんだろう。前世の能力をすべて使える能力? いや、頭のおかしい子だと思われる。

 う~~ん、前世の力を全て取り戻せるとしたら、結構万能になる気がする。万能な能力だよとでも言っておこうかな?


「何でも出来る能力だよ」

「なんでも――ムグッ!?」

「だから声大きいって!」

「ご、ごめん。だって凄いこと言うから……」


 学習しない梓の口を強制的に塞いで黙らせる。周囲に視線を向けても、誰も気にしてない様子だから大丈夫そうだ。なんだいつもの事かって感じだ。

 いや、それはそれでどうなんだろうって思うけど。


「まぁでもそういう事だから疲れてるの」

「そっか、それは大変だったね。でもこれで私達は全員が発現したね!」

「まぁ確かにそうね。私だけ発現しなかったらどうしようかと思っててわよ」

「何の話だ?」


 梓と私が能力について話していると、横から新しい声が参加してきた。

 声がした方を振り向けば、今登校してきたばかりの友人の姿があった。


「雅ちゃん!」

「雅、おはよう」

「おはよう梓、雫」


 彼女は不知火しらぬい みやび

 身長174cmのスレンダー美女で、男子からの人気はもちろん、その女性にしてはかっこいい風貌から女子人気も高い。私よりも長い髪の毛を頭の高いところで結んだポニーテールが、更に彼女のかっこよさを際立たせている。


「それで発現がどうとか聞こえたけどどうしたんだ?」

「それがね雅ちゃん、雫ちゃんが能力発現したんだって!」


 今度は梓も、しっかりと耳元で小さな声で大きく言うという芸当をした。

 それを聞いた雅は梓みたいに狼狽えることなく、冷静に受け止めている。流石だ。


「おめでとう雫。これで全員揃ったな」

「ありがとう雅。発現してくれてよかったよ」


 私達が3人で話していると、教室の扉が開いてもう一人の友人が入ってくる。


「おはようございます皆さん」

「おはよう華ちゃん!」

「おはよう華」

「おはよう」


 丁寧な挨拶をしてくれたのは、如月きさらぎ はな

 私達仲良し4人グループの最後の一人で、おっとりほわほわのお嬢様だ。身長は私より少し小さい160cmで、ハーフアップにしたふわふわの髪の毛が、より穏やかなお嬢様感を強調している。


 華が来たことで、梓が私が能力発現したことを言って仲良しグループ全員が知ることになった。華は大きく驚くことなく、おめでとうございますと穏やかに言うだけだった。

 梓とは違うね。


「やっぱすげぇよ、皇高すめらぎこう四大美女が揃っちまってんだよこのクラス!」

「俺本当にこのクラスになれて幸せ……」

「四大美女が仲良しグループとかバグってんだろこの世界!」

「俺写真取ってもらおうかな……!」


 男子達のやかましい声が聞こえてくるが、こんなものはフルシカトを決め込む。

 梓が写真って言葉に反応しかけたけど、面倒なことになるのが分かってるので、雅が顔ごと掴んで強制的に無視させる。


「雅ちゃん辞めてよー! 写真ぐらい撮ってあげれば良いじゃん」

「駄目だ」

「なんでさなんでさー!」

「梓は女優だろう。変にSNSにあげられて誤解を生んだらどうする。リスクマネジメントをしなくちゃ危ないだろう」

「ぶーぶー」

「梓さん、雅さんの言う通りですよ。わたくしも気をつけた方が良いと思いますわ」

「むー……華ちゃんもそう言うなら辞める」

「アタシが言った時に辞めて欲しいな」

「はーい」


 今の3人の会話にもあったように、梓は女優だ。16歳という若さにして色々なドラマに出てる人気株。

 そんな大事なキャリアにSNSにあげられた写真如きで傷をつけたくない。危機意識の低い梓に変わって私達が気をつけないといけない。


 梓だけじゃなく、私達は4人とも生まれが特殊で、そこの繋がりから仲良くなった。


 梓はさっきも言った通り人気女優で、母親も父親も世界的に人気な俳優さんと女優さんだ。

 雅は江戸時代から続く由緒正しい武士の家系で、ダンジョンが溢れる世界になる前から軍と繋がりを持つ一家だ。

 華は日本随一の財閥の娘で、政治家や他の大企業との繋がりを多く持つ家系の三女だ。

 私はダンジョン社会となったこの世界で、日本トップのダンジョン産業を束ねる大会社の社長の娘だ。


 そんな特殊な生まれの私達は、やはりというか当然のごとくこの皇高校に入学することになり、更に当然のごとく同じ教室に放り込まれた。

 そうなれば自然と似た境遇の私達が仲良くなるのも当たり前という訳だ。


「はーい皆席に座ってー」


 仲良しグループの皆と仲良く会話していれば、あっという間に朝のHRの時間になる。先生がガラガラと勢いよく扉を開けて入ってきて、今日の連絡事項を言うのが定番だ。


「今日は始業式だからなーこれから体育館に行って始業式するぞー」


 若干適当な先生の言葉に、慣れたように返事をして体育館に移動する。


 皇高校は3年間クラスが変わらない。だからこの先生も私達の担任2年目だし、私達もこの先生の適当さを見るのは2年目だ。だから皆慣れててなんの反応もしない。




 始業式が始まれば、皆退屈そうにボーっとしだす。

 いくら有名な学校でも、校長先生の話が長いのは同じだ。退屈で仕方ない。


「えーであるからして、我が校は通常の学業の他にもダンジョンへの知識と実践的な……」


 眠い。眠すぎる。


 私は眠さを紛らわせるためにあの画面を開く。

 いつまでもあの画面って呼ぶのも分かりにくいな。うーん、能力画面でいっか。また良い呼び方があったら変えよう。


 能力画面を開いて何か退屈を凌げるものがないか探す。そして、指だけを動かしてると変な人に見えるということに気づく。


 どうしよう。と思って画面を眺めていると、カーソルが出てきて私の意思に従って動くのに気づいた。



 1人で指動かしてる問題が解決したので、改めて画面を見る。


 ステータス、ニュース、ダンジョン、改造……改造!?


 朝は気づかなかったけど、なんだか不穏な単語が画面に表示されている。

 改造ってあの改造? 本来とは別の用途が出来るように作り変えるっていうあれ?


 興味本位でボタンを押してみる。すると画面が切り替わって3つの項目が映し出される。


 ・ステータス

 ・ダンジョン

 ・能力画面


 3つの選択肢が出てきたが、どれもこれも気になるので取り敢えず上から順番に押してみる。

 取り敢えずステータス。


『ポイントが足りません』


 何かのポイントが足りないらしい。

 じゃあ次はダンジョンだ。


『保有ダンジョンがありません』


 ダンジョンを保有しないといけないらしい。

 じゃあ能力画面は?


『変更項目を入手していません』


 変更項目? 1番意味が分からない。

 結局何も出来ないという事が分かった。


 それなら仕方ないとニュースを開く。


『勇者パーティ光刃の剣帰還。圧倒的強さで日本の光に!』


 というタイトルのニュースが目に入る。

 なーにが圧倒的強さよ。そう思いながらニュース画面を開くと、またもやダミキテ街の名前が出てくる。


『ダンジョン最奥のボスを倒すと、ワープゲートが出現した。そのワープゲートに乗ると、地上に戻ったと思いきや異世界の街に飛ばされた。そこの街の名前はダミキテ街と言い、言語は通じ、同じ人間が住んでいた。驚くことにファンタジーのみに存在すると思われていた獣人までもが暮らしていた。ただ、街の外に出ようと試してみたが、街の外には出られないようだった』


 と記事が書かれている。


 ダミキテ街に行ける。なら私もダンジョン攻略しないと。

 私は特に深く考えず、そう決断した。別に戦闘は慣れているし、危なくなったら逃げれば良い。


 だからダンジョンに潜ろう。今日! すぐに!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る