第2話 能力

「まぁでも今は女性という認識の方が強いわね」


 誰に言い訳するわけでもないが、1人でそう言葉を漏らす。

 二の腕を触ったり、お腹を触ったりする。柔らかい。


 102年男として異世界で生きていた自覚はあるが、不思議と女性という認識の方が強い。生きた年数よりも、今生きてる状況の方が優先されるみたいだ。


「それにしても女神様の言っていた私好みの姿ってそういう事だったのね」


 まさか女神が女色とは思わなかった。


 部屋の鏡の前で制服を脱ぎ、自分の姿を改めて見る。

 さらさらとした黒髪は腰まで伸ばしてあり、枝毛やくすみなんかもない事からよく手入れされてることが分かる。

 四肢はすらっと伸びていて長い。身長も164cmあって女性にしては高い。プロポーションも良く、出るとこは出て引っ込むところは引っ込んでいる。

 うん、巨乳だ。赤色の下着がこれでもかと言うぐらい似合っている。


「やっぱ私って完璧ね」


 顔は控えめに言って美少女。控えなければ世界一の美少女。

 女神様の好みの姿らしいから当たり前と言えば当たり前だ。



 一旦制服を着直して、部屋の椅子に座って一息つく。そして、画面よ出ろと願って画面を表示させる。


 出てきた画面にはいくつかの欄があり、その中のステータスという項目を押す。


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【名前】 一条いちじょう しずく

【年齢】 16

【称号】 神格者(封・隠)、女神の寵愛、転生者(隠)

【保有能力】 精神強化Lv3、身体強化(無)Lv3、身体強化(闇)Lv1、思考加速Lv3、演算領域拡張Lv2

【適性属性】 無、火、風、光、闇

【次回解放条件】 星1ダンジョンに入る


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「これが私の能力。随分と他の人と違うのね」


 ステータスに書かれていることを見てみる。

 称号の神格者っていうのは女神様が言っていた事で、転生者っていうのも納得できる。女神の寵愛っていうのは何なんだろうか。神力を使って言ってたし、それが関係してるのかも。


 保有能力は、精神強化と身体強化が2種類。思考加速に演算領域拡張も持っている。これは前世でも持っていたし、どれもこれも基本中の基本のスキルだ。


 適正属性が無、火、風、光、闇。前世は他にも適正属性があったのだが、それはないらしい。適正属性は生まれながらに決まっているのが前世の常識だったから、もしかしたら今世では適性はこれだけなのかも知れない。


 そして1番気になるのが次回解放条件という項目だ。これは多分女神様が言っていた、段々と能力を取り戻せるようにしてくれるってやつだと思う。

 その条件が星1ダンジョンに入る事ね。まぁ良いわ。後でやりましょうか。



 それにしても、今までテレビで冒険者の特集なんかが組まれていたけれど、そこでこんなステータスを見れるなんて聞いたことがない。 

 それにあの金髪でエセ関西弁の、世界的有名冒険者は、能力発現と同時に聖剣が出現して、握ったら勇者としての力の使い方が分かったって言ってた。


「それにしても勇者の事舐めすぎよね。あんな弱くないわよ勇者は」


 懐かしい顔を思い浮かべながら文句を言い、画面を閉じてリビングに向かう。

 時刻は6:30。そろそろ朝ごはんを食べないとだ。


 下の階に降りていくと、パンが焼ける良い匂いがする。


「おはよう、お母さん」

「おはよう、雫。今日も可愛いわね」

「ありがとう。お母さんもね」

「ふふ、嬉しいわ」


 お母さんは調理師をしながら主婦もしている。

 お父さんが家政婦さんを何人も雇ってるんだけど、お母さんは料理だけは自分でしてる。ってことは主婦って言うのは違うのかも?


「お母さん仕事は?」

「今日は始業式だから店は休業よ。そもそも1日3時間しか営業してないもの。お客さんにも事前に伝えてたから大丈夫よ」

「そうなんだ」


 お母さんお手製のパンと、目玉焼きにベーコンの朝食セットを食べながらお母さんと会話をする。

 美味しいにも程があるよこのパン。



 美味しいパンに舌鼓を打っていると、テレビから緊急速報が流れてきた。


『たった今、勇者様率いる光刃の剣が星5ダンジョンを制覇したとの情報が入ってまいりました。ダンジョンの最奥には街が存在し、その街はダミキテ街と呼ぼれていたとの事です。続報が入り次第、またお届けいた致します』


 その名前を聞いた瞬間、席から立ち上がってしまう。その反動で、ガタンと音を立てて椅子が倒れる。


「どうしたの? 雫」

「え、あ、いやなんでもない! やらなきゃいけない課題思い出しただけ!」

「あら、早くやっちゃいなさい。雫のことだから大丈夫でしょうけど」

「うん、大丈夫。まだ1週間あるから」


 咄嗟に課題の事だと誤魔化して難を逃れる。


 けど、あのテレビの情報は本当なの?

 スマホを取り出して調べる。


 本当だ……。でもおかしい。どう考えてもおかしい。 

 だってダミキテは、ダミキテ街は……前世の私が勇者と出会った街だ。



 とにかく落ち着いてご飯を食べ、急いで食べ終われば部屋に戻る。


「なんでダミキテ街がダンジョンの奥から現れるのよ」


 スマホの検索エンジンを最大限に活用して情報を集める。ネットニュースからSNSのまとめてる人の話だったり、ネット掲示板のまとめスレなんかも全部目を通した。


 結論、良く分からない。


 それはそうだ。ニュースが緊急速報って言って出してきた情報なんだから、それ以上の情報があるはずがない。少なくとも数時間は待たないと無理だ。


 そんな時、ふとあの画面を開いた方が良いような気がした。


 そんな予感に従って、画面よ開けと念じる。そうすれば、あのステータスを表示していた画面が開く。

 そして、注目すべきは右上の通知マーク。


「やっぱり光ってる」


 さっきまでは確実に無かった光が、通知マークに灯っている。つまりは、女神様からまた連絡が来たということだ。

 私はそれをすぐに押して開く。


『やっほー雫ちゃん。そろそろニュースは見た? 雫ちゃんが懐かしさを感じる世界が良いって言ってたから、地球の神と相談して世界繋げちゃいました~! パチパチパチ! 星5ダンジョンじゃまだ街にしか繋がってないけど、それ以上に行けばあの世界に戻れるよ! じゃあね! 幼い女神より』


 その文章を読んで頭を抱える。

 女神の文書をそのまま信じるとすれば、ダンジョンの最奥に街があるのは私の願いだからということになる。もしかしたら、昔地球にダンジョンが現れたのもこの為なのかもしれない。


 と、なると……


「もしかして全部私のせい……?」


 ダンジョンが突如世界中にできて大混乱に陥ったのも、それに適応するように人類が能力を使えるように進化したのも、それの影響で魔物と戦いだして亡くなった人がいるのも。全部私のせい?


「……そっかぁ」


 衝撃の事実に窓の外を眺める。

 高層ビルから見える景色は、視界いっぱいに青空が広がって気持ちがいい。


「はぁ……まぁいっか。世界の命運とかそういう話は前世で聞き飽きたし、私のせいじゃなくて女神のせい。そう、そうだよ。それに能力のお陰で人類死ににくくなったし良いでしょ。うん」


 なんだかもうどうにでも良くなったので学校に行く準備をする。

 準備と言っても着替えてあるから手荷物の用意をするだけだ。それも少ないからすぐに終わる。


「そろそろ学校行こうかな」


 スマートフォンを鞄にしまって、手提げ鞄だけを持って玄関に向かう。


「あら、雫ちゃんもう行くの?」

「うん」

「私も後から行くわね。お父さんも来るって言ってたわよ」

「お父さんも来るんだ。じゃあ私は行ってくるね」

「はい、行ってらっしゃい」

「行ってきます」


 お母さんと簡単にやり取りをして家を出る。今日は始業式だ。

 早く友だちに会ってこの微妙な気持ちを拭いたい。

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