第91話
「携帯彼氏だけど」
視線を下に向けていた井上が正面に向き直った。
「持ち主が次々に亡くなっているんだ」
「それはもう聞いてるよ。まさか……。お前は絵理香も死んでるって言いたいのか!?」
村瀬は声を荒げた。
井上の歯切れの悪い物言いに、苛立ちが募る。
「落ちつけよ。そうじゃない。お前が携帯電話と共に追ってきた人物は、みんな死んでる」
「何が言いたいんだ」
村瀬は井上を睨みつけた。
ここが喫茶店でなければ、井上の胸ぐらを掴んでいるところだ。
村瀬は拳を握りしめて怒りを押さえた。
「逆だよ。携帯電話に映っている人物がその持ち主を殺してるんだ。つまり……」
「絵理香が……殺してるって言いたいんだな」
村瀬は出来るだけ声のボリュームを押さえた。
そうしなければ、震えて上手くしゃべることができなかった。
「絵理香が生きていてくれるのなら、殺人鬼になり変っていたって……かまわない」
村瀬はこれまで目にしてきた死体を思い出し、胸が苦しくなった。
命を落とした人たちにも、家族がいたはずだ。
そのことを思うと、絵理香だけ無事ならそれでいいという考えはあまりにも乱暴だった。
村瀬の中でうすうす感じていたことを、他人である井上に指摘されたことが許せなかった。
「お前、やっぱり何か知っているんじゃないのか?」
村瀬は思い切って井上に問いかけた。
「絵理香から何か聞いていたのか?」
井上は無言のままだ。
「絵理香と……会っていたんじゃないのか?」
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