第5章 新たなる疑問
第87話
「お姉ちゃん! ウソでしょ!? 起きてよ!!」
斉藤容子の遺体に覆いかぶさるようにして、妹の斉藤久美は大きな声で泣きじゃくっていた。
朝、いつもの時間に起きてこない容子を心配した久美が部屋に入ると、容子はすでに冷たくなっていた。
容子の顔面は蒼白で、脈を確認しなくとも、そこに血が通っていない……つまり、絶命しているのは明かだった。
久美はピクリとも動かぬ姉の上で、どうしていいのかもわからず、呼吸をするのがやっとの状態だった。
様子を見にきた母親が部屋へと入ってきた。
母親のはっと息を呑む音が、久美の耳に届いた。
「容子……?」
母親が容子に近づく。
容子の頬に手を当てたかと思うと、母親はその手を素早く引っ込めた。
しばらく姉の胸に顔を乗せていた久美は、突然身を起こし、自分の両手を容子の心臓部分へと当てた。
心臓マッサージのやり方は知らなかった。
それでも久美は何かに取り憑かれたように、必死になって容子の心臓目がけて体重を乗せた。
「死んじゃダメだよ……。死なないで!!」
半狂乱になりながら、久美は心臓マッサージを繰り返した。
「久美……。容子は……」
久美の背中を、母親がきつく抱きしめた。
「そんなことない。信じない」
母親の腕を力ずくですり抜け、久美は再び容子の胸を押さえた。
久美の視界は涙で歪み、押さえている場所が心臓なのかどうかもわからなかった。
「やめなさい! 容子はもう死んでるのよ!」
母親に痛いほど腕を掴まれ、久美はピタリと動きを止めた。
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