第83話

里美はゴクリと唾を飲み込んだ。


「そんな怖い顔されたら、話しにくいわ」


悦子は鉄板から肉を取ると、里美の取り皿へと乗せた。


里美は悦子から視線を逸らし、鉄板の上に乗った野菜を意味もなく箸でもてあそんだ。


「後悔なくして死ねる人なんて絶対にいないと思うの。だから私は救われない霊たちのためにサイトを作った。里美は『死霊婚』というものを知っているかしら?」


里美は小さく首を横に振った。


「『死霊婚』っていうのはね、現在でも行われている魂を沈める儀式で、未婚のまま亡くなってしまった人を人形に見立て婚礼の儀を行うものなの。死者があの世で結婚し、幸せになれますように……って。残された家族の想いが込められているのよ」


「亡くなった人同士で?」


「違うわ。自分の好みのタイプでもない人とは、たとえ人形だとしても結婚式なんて挙げたくないでしょ? 結婚相手には、架空の人物が用意されるの。でもそれって本当の意味での成仏につながるのかなって……」


里美は箸を止めた。


肉汁を飛ばしながら、鉄板の上で肉が跳ねている。


もしも……死んでしまった人に好きな人がいたとしたら、その想いの行き場は――。


「好きな人にもう一度会うことこそが、成仏への道」


里美はひとりごとのようにそう呟いた。


悦子が大きく頷く。

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