第78話
「あい・すくりーむを復活させる作業はどのくらいの時間がかかるんだ?」
「少なくとも半日以上はかかると思います……」
五十嵐は浅沼の背中に向かって声をかけたが、質問に答えたのは悦子だった。
「順調に行ったとしても、明日以降になるかと……」
裕之の携帯電話に映し出されているデジタル時計は、19:37を示していた。
「お二人の部屋は用意してあります。あいつも人がたくさんいると作業に集中できないでしょう。今日は早めに休んでください」
五十嵐が悦子にルームキーを差し出した。
浅沼はこちらを振り向くこともなく、作業に没頭している。
「でも……何か分からないことやトラブルがあったら、私がいないと困るんじゃないでしょうか?」
「その時はすぐに連絡します」
五十嵐が里美に目くばせしてくる。
悦子を連れて部屋に行くよう指示していると感じた里美は、悦子の背中を扉の方へと押しやった。
「私も母も、すぐに携帯に出られるようにしておきますから」
深々と頭を下げると、里美と悦子はエレベーターに乗り込み、2つ上の階にある部屋へと向かった。
部屋に入ると、窓から小樽運河が見えていた。
水面にガス灯の光が反射して、辺りはやさしい橙色に染まっている。
多くの観光客が、運河沿いをゆったりとした足取りで歩いていた。
里美は荷物を置くと、ちょっと出てくると言い残して部屋を出た。
観光客にまぎれて、運河を散策する。
歴史を感じさせるレンガ造りの建物が立ち並び、ゆらめく水面に歪な形を映し出している。
里美は迷っていた。
このまま村瀬に何も伝えずに携帯彼女を除霊してしまっていいのだろうかと。
最後に村瀬に会わせてやった方がいいのではないか。
このまま除霊が済んでしまえば、村瀬は二度と妹の声を聞くことはできなくなる。
ただ今の段階では、携帯彼女エリカの消息は途絶えたままだ。
村瀬のために除霊を引き延ばすということは、さらなる犠牲者を生むこととなる。
里美はかぶりを振った。
せめて絵理香が亡くなっているという事実だけでも伝えておくべきなのではないか……。
里美は携帯電話を取り出して、アドレスから『村瀬』を選択する。
――小樽に来ていることも知らせておこう。
里美はゆっくりと通話ボタンを押した。
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