第77話

里美はかばんの中から、裕之の携帯電話を取り出した。


開いた状態で、テーブルの上へとあげた。


この中にいる携帯彼女が消えれば、除霊は成功したことになる。


部屋は沈黙に包まれた。


里美は浅沼の作業の進み具合が気になった。


ソファから立ち上がり、浅沼の元へと近づく。


一心不乱にパソコンを操作する姿は、里美にあの日のことを思い出させた。


心の中で整理がついたとは言い難い。


悦子に対して抱いてしまった不信感も、完全には拭いきれてはいなかったし、悦子と浅沼が、多数の命を奪ってしまったことは、消せない事実だった。


浅沼の背後から、彼の操作するパソコンへと近づく。


画面には、全く意味のわからない記号や数字がずらりと並んでいる。


里美は、パソコンの横に置かれている紙が目に入った。


書道の時に使う半紙のような薄い紙に、象形文字のようなものが書かれている。


中央には神社の鳥居を思わせる記号……。


こっくりさんみたいだと里美は思った。


近づいて詳細を見ようとしたとき、腕をぐっと握られた。


悦子だった。


「お母さん?」


悦子は無言のまま首を横に振る。


里美はそのままソファへと連れ戻された。


「あんなもの、見たって仕方ないわよ」


「でも……」


あの紙は、悦子が浅沼に渡したものに違いないと里美は思った。


悦子はあの紙の意味するものを知っている。


あれ以来、連絡を取り合っていなかったはずではないのか。


里美の疑いを察したのか、悦子は小さな声で話し始めた。


「あれは、あい・すくりーむを作るときに、彼に渡したものなの。警察に押収されてしまったとばかり思っていたけど……」


悦子が五十嵐に視線を送る。


「今回の為に、一式署から持ってきましたよ」


口をへの字に曲げ、五十嵐は苦笑いをした。


「里美は知らなくていいのよ。五十嵐さん、この件が終わったらあれは焼却してください。あれがもし他の誰かに……」


「わかってますよ」


五十嵐は渋い表情で大きく頷いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る