第74話

北の玄関口、新千歳空港に着いたのは、すでに夕方を過ぎた頃だった。


五十嵐に到着を知らせると、道警の熊谷という男を向かいにやるので、空港で待機するように指示された。


悦子と里美は、空港内のレストランの入り、軽めに夕食を済ませた。


ふたりとも口は重たかった。


口を開いたとしても、出てくる言葉は「どうして」や「なぜ」という疑問詞だけだろう。


どうして、あい・すくりーむを閉鎖したのにも関わらず、携帯彼女が存在しているのか。


なぜ浅沼は刑事を辞め、北海道に来たのか。


どうして……。


次から次へと湧き出てくる疑問。


里美は、だまって母親の悦子の顔を眺めた。


彼女は心痛な面持ちのまま、視線をテーブルへと向けていた。


食後のコーヒーが出てからおよそ30分後に、熊谷という刑事から連絡が入った。


里美と悦子は、待ち合わせ場所へと向かう。


以前、五十嵐の部下だったと聞いていたので、ずっと若い人を想像していたが、五十嵐とほとんど変わらないくらいの年配の男だった。


駐車場へ向かうため、空港の建物を後にした。


空が朱色に染めらている。


もう夏は目の前だというのに、北海道の空気は冷たい。


周りに風をさえぎる物が何もないからか、冷たい風が吹きすさぶ。


里美は肩を縮めて身震いした。


黒塗りの車の後部座席に、悦子と並んで腰をおろす。


「これから小樽に向かいます」


熊谷が振り返って言った。


「小樽……ですか?」


里美は聞き返した。


ここからどのくらいの距離に位置しているのかもわからない。


「1時間半くらいかかります。五十嵐さんは、もう小樽に着いていて、浅沼さんと一緒だそうです」


1時間半。


里美は携帯電話を取り出し、時間を確認した。


小樽に着くのは7時くらいになりそうだ。


里美は逸る気持ちを押さえつつ、窓の外に視線をやった。


――楽しい気分でこの景色を見ることができたら、どんなによかっただろう……。


夕日に染まる緑多き街並みを、里美はため息を溢しながら見つめていた。

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