第73話
◇
「浅沼が見つかった」
五十嵐の電話を受けた里美は、携帯電話を耳にあてたまま急いで階段を駆け下りた。
あまりの慌てように、慣れている階段ながら躓きそうになる。
リビングの扉を乱暴に開けると、里美は母親の悦子に向って五十嵐の言ったセリフをそのまま繰り返した。
悦子が水道の蛇口を閉め、こちらに振りかえった。
浅沼が見つかったということは、携帯彼女の除霊ができるということだ。
そうなると、携帯彼女エリカも消えてしまうことになる。
里美は、エリカ本人にどこにいるのか、何が起きたのかを聞こうと思っていた。
除霊が済んでしまうと、それは叶わなくなる。
イニシャルOの既婚者。
それだけでヒントは十分揃ったといってもいいだろう。
イノウエオサム。
村瀬の親友を疑うのは心苦しいが、里美は井上を徹底マークすることで絵理香の居所は簡単に掴むことができると考えていた。
「それで、浅沼さんはどこにいるんですか?」
里美は早口でまくし立てる。
「北海道だ」
「北海道ですか!?」
里美は、悦子と顔を見合わせた。
除霊は、浅沼ひとりではできない。
悦子の力も必要だった。
「今、空港に向っている途中だ。君もお母さんと一緒にすぐに北海道へと来てくれないか」
里美は五十嵐からの電話を切ると、急いで準備を始めた。
悦子もすぐに状況を飲みこんだようで、忙しなく部屋の中を動き回る。
その様子からも、浅沼との連絡はあれ以来、途絶えていたのだとわかる。
里美は少しホッとしていた。
自分の知らないところでまだ浅沼と繋がっているのではないか……という思いが少なからずあったからだ。
里美は大きなカバンを手に、必要なものを詰め込んでいく。
最後に手に取ったのは中島典子から借りたままの携帯電話。
里美の彼氏だった男……裕之のものだ。
画面には相変わらず携帯彼女が映し出されたままになっている。
里美はそれをカバンにしまうと、悦子と共に家を出た。
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