第71話
「その後どうだ? 絵理香ちゃんのこと、何かわかったか?」
井上の口調が芝居がかって聞こえる。
『お前の方がよく知っているんじゃないのか』
のど元まで出かかった言葉を、村瀬は飲み込む。
「いや、何も」
きつい言い方になったかもしれない。
そう思った村瀬はしらじらしく咳ばらいをした。
「そうか……。こっちも例の新聞社の奴に頼んではいるんだが、有力な情報は今のところ掴めてないんだ。ただ……」
井上はそこで口籠った。
「携帯彼氏って知ってるか?」
村瀬には聞き覚えのない言葉だった。
「ほんの少し前に、あい・すくりーむってサイトが提供していたものなんだ。携帯電話の中でバーチャルな彼氏と疑似恋愛を楽しむっていうゲームのようなものらしいんだ」
井上が何を言わんとしているのか、村瀬には全く理解できなかった。
「その携帯彼氏と絵理香の失踪と、何か関係があるのか?」
村瀬は耳にあてていた携帯電話を握りなおした。
「携帯彼氏は待ち受け画面に男の画像が映し出されるらしいんだ。似てると思わないか?」
村瀬は井上の言った言葉を頭の中で整理した。
確かに、これまで村瀬が追ってきた携帯電話の中には、絵理香に似た画像が待ち受け画面に映し出されていた。
「それに……。これはあまり大きな声では言えないんだが……。携帯彼氏をやっていた女性が、何人も不審死しているんだ」
「それって……」
村瀬はそこで言葉を詰まらせた。
絵理香と思わしき人物が映し出されていた携帯電話の持ち主は、次から次へと命を絶たれていった。
「そのあい・すくりーむってサイトを教えてくれ!」
井上に対して感じていたはずの疑いは、すっかり忘れ去られていた。
新たな手掛かりを目の前に、村瀬は焦りを感じていた。
「それがすでに閉鎖されてるみたいなんだ。不審死の件も、どうやら警察がもみ消したらしくて、全く表沙汰にならなかったらしい」
「色々調べてくれてたんだな……。すまない……」
謝罪の言葉は、井上が調べてくれていたことに対してではなかった。
疑ってしまったことへの謝罪だった。
「何謝ってるんだよ。当然だろ」
村瀬は自分が愚かすぎて、情けなくなった。
「新たに情報が入ったらまた連絡するよ」
そう言って井上は電話を切った。
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