第65話

「村瀬さん!」


里美に大声を出されて、村瀬は我に帰った。


「ぁあ、すまない」


村瀬は慌てて取り繕う。


「重要な手掛かりです。思い出せませんか」


「O、お、お……」


そう声に出して言ってみても、村瀬の頭の中はOのつく人物よりも、絵理香の不倫のことで占められていた。


――絵理香はいったい誰と不倫を……。


妹をもてあそんでいる人物が憎かった。


ましてやその人物が知り合いの中にいると思うと、村瀬ははらわたが煮えくりかえりそうだった。


「お……お、おしお。そうだ押尾かもしれない」


村瀬はひとりごとのように、ぽつりとつぶやいた。


「押尾……さん?」


「そうだ。絵理香は学生の頃、押尾を見てかっこいいと言っていた。あいつも何度か家に来たこともあったし、結婚もしている」


村瀬は口元を押さえた。


体の底から湧きあがる怒りに、膝がガクガクと震えた。


村瀬の理性は、完全に崩壊していた。


里美を押しのけ、絵理香の机の引き出しを片っ端から開けていく。


あれほど絵理香の持ち物に触れることをためらっていたはずなのに、この行動には村瀬自身が一番驚いていた。


机の中の物を、床へと撒き散らす。


そこから何か手掛かりになるようなものを探す。


床に這いつくばり、ひとつひとつを手に取る。


「これは……」


村瀬が1枚の写真を拾い上げた。


それを手にしたまま、村瀬は動かない。


「どうしたんですか」


里美が心配そうな声で尋ねてきた。


村瀬は肩で大きく呼吸を繰り返す。


無言のまま、震える手で写真を里美へと渡した。

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