第63話

「それじゃ……色々と見させてもらいますね」


里美が申し訳なさそうに、部屋を見渡す。


「いい気分はしないだろうが、よろしく頼むよ」


里美はまずは絵理香の寝室から調べ始めた。


タンスの引き出しを開けては閉める。


「気になるものがあったら、手に取ってくれてかまわないから」


村瀬はいつものように、絵理香の留守番電話と溜まっている郵便物を調べ始めた。


相変わらず何もわからない。


さっきまでゴソゴソ物音がしていた寝室から、音が途絶えた。


「里美……?」


村瀬は手にしていた郵便物をテーブルの上にまとめると、絵理香の寝室へと入った。


里美は真剣なまなざしでノートを眺めていた。


「なにかあった?」


「これ……絵理香さんの日記なんですけど」


言いにくそうに里美は下を向いた。


「どうした?」


「絵理香さんには……好きな人がいるようです」


「好きな人? 絵理香に恋人がいたなんて、全然気がつかなかった……」


村瀬は首をひねった。


兄に内緒で付き合っていたというのだろうか。


「ここ見てください。相手の名前の部分がアルファベットで記されています」


里美の指さす箇所を確認する。


イニシャル『O』。


そこには『O』への想いがびっしりと綴られていた。


「絵理香さんは、誰にも知られたくなかったんじゃないんでしようか。自分の好きな人を……」


「いや、でもそこに名前が書かれたとしても、俺にはわからないんだし」


そこまで言って、里美の言わんとすることが理解できた。


「そうか。俺の知ってる奴ってことか……。Oの付く名前の奴……。小田、及川……まだ他にもいた気がする」


村瀬は頭をかきむしった。


絵理香の記した『O』は一体誰なのだろう。


里美は絵理香の日記を1ページ1ページめくっていく。


その手がにわかに止まった。


里美の漆黒の瞳が、クリクリとせわしなく動く。


「何が書いてあるんだ?」

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