第62話
◇
村瀬は待ち合わせの時間よりも少し早目に駅に着いていた。
里美とはその後もこまめに連絡を取り合っていた。
五十嵐という刑事をも巻き込むことに成功したが、その後何の進展も見られなかった。
「すみません。お待たせしてしまって」
里美が頭を下げながらこちらに向かって小走りで駆けてくる。
「そんなことより、つき合わせてしまって悪かったね」
「本当にいいんですか? 婚約者の亜矢さんがいるのに、私なんかが絵理香さんのお部屋に入ってしまって」
里美は申し訳なさそうに俯く。
「亜矢は……、絵理香捜しにはあまり協力的ではないんだ。かといって、男の俺が絵理香の持ち物を勝手に漁るのも気が引けてしまって……。里美にしか頼める人がいなかったんだ」
村瀬は里美よりもさらに深く頭を下げた。
自分で絵理香の部屋を探ってもよかったのだが、絵理香も年頃だ。
下着だとか、兄として見たくないものだとか……そういった類のものも多々あるはずだ。
何度も亜矢に頼もうと思ったが、彼女は捜索の手伝いをするどころか、絵理香の心配すらしていないように見えた。
「いきましょうか」
里美と並んで絵理香のアパートへと向かう。
照りつける太陽が、ジリジリと熱い。
夏はもう目の前まで来ているようだった。
「失礼します……」
家主のいない部屋に向かって、里美が声をかける。
「家探しみたいなことをするのは気が引けるだろうが、俺を助けると思って、隅から隅まで見てくれるとありがたいんだが」
村瀬は気まずそうに視線を逸らした。
「その前に、ゴミ、片付けますね」
ゴミ袋を手渡すと、里美は手早く台所のゴミを片付けていく。
生臭いのは、ゴミが腐敗していたせいだったようだ。
男の村瀬ではなかなか気がつかない部分だ。
――いい子だな……。
無理な頼みにも、嫌な顔もせずに笑顔で力を貸してくれる。
赤の他人である里美と、近い将来姉妹になる亜矢とを比べてしまい、村瀬は小さくため息をこぼした。
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