第61話

着信ランプが点灯を繰り返す。


震動はいつまでたっても止まなかった。


斉藤容子は、ゆっくりと携帯電話を開いた。


涙をぬぐい、鼻水をすする。


斉藤容子は、着信ボタンを押した。


携帯電話を耳にあてる。


「……どこ?」


聞こえてきたのは、女の声だった。


斉藤容子の心臓が激しく収縮する。


丸山の携帯電話のアドレスに、女の名前など見たことがなかった。


「あの……どなたですか」


そう言うのが精いっぱいだった。


「……違う。また違う」


ノイズが激しく、よく聞き取ることはできない。


間違い電話だろうか。


斉藤容子は、そのまま電話を切ろうとした。


「探してよ……。私は……あの……ない」


雑音に混ざりあい聞こえてきた女の声は、とても冷たく、後半は怒気を含んだような強い口調だった。


斉藤容子は電話を切った。


相手の言っていることがさっぱりわからなかった。


斉藤容子は携帯電話をカバンの中へと戻し、ベッドの上で動かなくなった彼の元へと歩を進めた。


まだ生きているかのように見える彼。


目立った外傷はない。


頬に手を伸ばしかけた時、斉藤容子の携帯電話が鳴り響いた。


慌てて着信ボタンを押す。


「教えて……」


さっきと同じ女の声が聞こえてきて、斉藤容子は慌てて電話を切った。


切った画面に、髪の長い女が映し出されていて、斉藤容子は短い悲鳴の後に、携帯電話を手から滑らせた。

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