第59話
村瀬は現在、仕事を休んで絵理香捜しをしていると言っていた。
里美も今は仕事についていない。
早い段階で絵理香を見つけ出せる可能性は高そうだ。
そのためには、もう少し具体的な情報が欲しい。
データがなければ、なぜ絵理香が命を落とさなくてはならなかったのか予想を立てて捜すこともできない。
絵理香の周りでトラブルがあったのなら殺人。
何か悩みを抱えていたのなら自殺。
事故なら……、遺体が見つからないのはおかしい。
この場合、絵理香はどこか遠い場所で亡くなっていると考えるべきだろう。
「でも……」
里美はいったん思考を停止させた。
ベッドから起き上がり、ペンをノートヘと走らせる。
事故という文字を書いたあと、その上から大きな×を描いた。
警察から連絡がないということは、絵理香は身分のわかるものを身につけずに亡くなっているということだ。
通常、出かける場合は、カバンを持って行くはずだ。
近所のコンビニに行くとしても、財布は必ず持って行くだろう。
その中に、カードの1枚や2枚入っていないものか。
無理やり事故とこじつけるなら、絵理香は何も持たずに出かけたことになる。
里美は、自殺と殺人の文字をノートに書いた。
広い視野で考えなくてはならない。
里美は村瀬から聞いたことを思い出し、さらに人物を書き足していく。
【婚約者の亜矢】
【母親の夕子】
一瞬ペンが止まる。
ゆっくりとその文字を綴る。
【井上】
警察署で一瞬見ただけだったが、どこかそわそわしていて、落ち着かない様子だったのが気になっていた。
「わざわざ仕事を抜けだして警察署へ顔を出すなんて、普通そこまでするかな……」
村瀬の友達を疑うのは、少々心が痛んだ。
絵理香の死と、井上への疑い。
どちらもしばらくの間は、自分の心の中だけに留めておこうと里美は思った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます