第58話

家に戻った里美は、村瀬から聞いた話を事細かにノートに書きだした。


携帯彼女エリカが関わって命を落としたと思われる人物名、状況などを詳しく書き込む。


同時に村瀬や絵理香の詳細についてもノートに記した。


絵理香の居場所を掴むには、絵理香本人、つまり携帯彼女エリカに聞くのが一番手っ取り早いといえるだろう。


浅沼が除霊しなくとも、エリカのラブゲージが100になってしまえば、行方が途絶えてしまう。


村瀬の話を聞いて一番驚いたのは、エリカのラブゲージの下がり具合だ。


携帯彼女エリカを手にしてから、わずか数日で持ち主はみんな死亡している。


絵理香の死因。


自殺なのか事故なのか、それとも殺人か……。


いずれにしても絵理香はもうこの世にはいない。


その事実をいつ、どのタイミングで兄の村瀬に伝えるべきか里美は迷っていた。


ずっと隠したままでいるのが村瀬のためなのか、真実を告げる方が村瀬のためなのか……。


里美はため息とともに、ベッドへと倒れ込む。


悦子に変わった動きは見られない。


浅沼を見つけ出すことも、携帯彼女エリカを見つけ出すことも、両方急がなくてはならない。


「もうしばらくはこのまま黙っていた方がいいのかな……」


早かれ遅かれ、村瀬は妹の死を知ることになる。


希望を持って妹を捜している村瀬のことを思うと、それがたとえ真実であれ、言わない方がいいのではないか。


絵理香の死だけではない。


携帯彼女となったエリカは、何人もの命を犠牲に携帯電話を廻っているのだ。


そのことを村瀬が知ってしまったら……。


なるべく村瀬が傷つかないように、そばで支えてあげたいと里美は思っていた。


浮かばれない魂のために生まれたはずのシステム。


それは生きている人間をも救うものであったはずだった。


悦子の誤算が、多くの犠牲者を生むこととなってしまった。


「絵理香さん……、どこに眠ってるの」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る