第57話

「だって。やっぱりおかしいもん。あの事故も里美も……。何を隠してるの? 困ってることがあるなら言ってよ。私たち友だちでしょ?」


由香が里美の顔を覗き込んでくる。


とてもやさしい顔だ。


里美は、由香のことを絶対に巻き込まないと決めていた。


それは大切な友だちを守るため。


もう、由香を危険な目にあわせたくない。


「今、仕事を探してるの。もうあの店にはいられないし。ずっと家にいるわけにもいかないから、必死になって職探ししてたの」


由香と目をあわすことができない。


「嘘。本当のこと言ってよ」


由香は簡単には引き下がってくれそうにもない。


里美は一度、深く息を吸いこむとこう言った。


「だったら、言わせてもらうけど、元はと言えば由香のせいでしょ? 私が職を無くしたのは、由香のせいなんだから」


「里美……?」


「就職活動の邪魔しないで。しばらく遊べないし、メールもらっても返せないと思うから」


里美は立ち上がると、由香に背中を向けた。


――ごめんね。由香……。


こみあげる涙を気づかれないように拭う。


「じゃ、私行くね」


里美は振り向かずに、そのまま店を後にした。

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