第53話

一度も相槌を打たずに話を聞いていた里美は、浮かない表情のままうつむいていた。


「里美が知っていることを話してほしいんだ」


何も言わない里美に、村瀬は声をかけた。


「私は何も……。ただ歩道橋の上で見た携帯の画像は、絵理香さんにそっくりでした」


村瀬は里美に煮え切らない態度が気になった。


「どうして絵理香はいなくなったんだと思う? あの携帯の画像と何か関係があるんじゃないかって思えてならないんだ」


里美の表情から何かを見出そうと顔を覗き込む。


だが曇ったままの表情からは何も読み取ることができない。


「私にも絵理香さん捜しを手伝わせてもらえませんか?」


里美の唐突な提案に村瀬は戸惑った。


「気持ちはありがたいが、初めて会った君にそんなことをさせるわけにはいかないよ」


村瀬は慌てて首を横に振る。


「実は、私もある人物を捜しているんです。今日もそのことで警察に来ました」


「それで?」


的を射ていない答えに、村瀬はすぐさま聞き返した。


「だから、色々と協力できるんじゃないかと思って」


答えになっているようで答えになっていない。


里美の回答を聞いて、村瀬は確信した。


――彼女は何かを知っている……。


このまま一緒にいれば、何かしらの情報を掴むことができるかもしれない。


「ありがとう。それじゃ、お言葉に甘えさせてもらうよ。五十嵐って刑事さんとも知り合いみたいだしね。で、里美が捜しているのは誰なの?」


「私は、五十嵐さんの部下だった人を捜しているんです」


「どうして?」


「あの……、私の母の知り合いで……」


村瀬はそれ以上追及するのをやめた。


里美という女の第一印象は“怪しい”だった。


多くを隠している、そんな印象を受けた。


お互いの番号を交換した後、里美は五十嵐の元へ行くと言って先にファミレスを出ていった。


「これで絵理香に繋がるかもしれない」


里美と再会できたことに、村瀬は一筋の明かりを見出していた。

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