第52話

村瀬と里美は、中央署のすぐ近くにあるファミレスに移動し、向かい合わせに座っていた。


初対面の女と二人っきりということに、村瀬は戸惑いを覚えていた。


こういう状況にあまり慣れていない。


「井上も一緒に来られたらよかったんですが、あいつ仕事を抜けだしてきてたんで……」


間が持たずに、どうでもいいことを口にしてしまう。


「あの……。敬語使わないでください。私の方が年下ですし」


にこりとほほ笑まれて、村瀬は慌ててコーヒーを啜った。


「それで、どうして私を捜してたんですか?」


「里美さんが……」


「里美でいいですよ」


再びほほ笑まれ、村瀬は咳ばらいをしてから続けた。


「里美が……、あの時歩道橋で拾った携帯電話について聞きたいんだ」


「携帯?」


里美は一瞬目を大きく見開いた。


「携帯を拾った時、君はとっても怖い顔をした。そして怯えるように携帯を指さしていたね? 何が写っていたの?」


里美は不審な表情のまま、口を開こうとはしない。


村瀬はポケットから写真を取り出す。


何度も出し入れしているうちに、写真はよれよれに傷んでしまった。


それを手の甲で軽く伸ばしてから、里美の目の前へと置いた。


「あの携帯に写っていたのは、この顔じゃなかった?」


里美の眉が動いた。


「これ……。誰なんですか?」


里美は驚いたように口元を手で押さえた。


「ここに写っているのは、妹の絵理香だ……。行方不明になっている」


「そ……、そんな!」


里美の必要以上な取り乱し方が気になった。


彼女が何か手掛かりを握っているのではないかと思っていたが、それ以上のことを知っているのかもしれない。


「もしかして、里美は絵理香の知り合い?」


「いいえ」


肩で呼吸をしながら俯く里美に、村瀬は続けた。


「じゃあ、どうしてそんなに怯えているの?」


「もっと詳しく話してください。絵理香さんはいつからいなくなったんですか?」


里美は村瀬の質問には答えず、逆に質問してきた。


「話せば長くなるんだが……」


コーヒーのおかわりを注文した後、村瀬はここまでの経緯を里美に詳しく話しはじめた。

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