第51話
「ありがとうございます」
村瀬は頭を下げた。
井上と共に出口に向かって歩き出す。
若い女とすれ違った。
村瀬はその女の顔に見覚えがあったが、誰なのかを思い出すことはできなかった。
「五十嵐さん!」
背後で女の声が聞こえた。
先ほどの刑事の知り合いなのだろうか……。
村瀬は立ち止まり、後ろを振り返った。
――どこで会っただろう……。仕事関係か、それとも……。
「あっ!」
村瀬は思わず大声を出していた。
踵(きびす)を返し、その女の元へと歩みよった。
「失礼ですが、あなたの下の名前は『里美』さんではないですか?」
女はきょとんと目をまんまるに開いて、五十嵐の顔と村瀬の顔を交互に見つめている。
「村瀬さん、彼女をご存じなんですか?」
五十嵐も驚いた様子で瞳を何度も瞬(しばた)いている。
「あ、あの……」
女は困ったような表情を浮かべ、首をかしげている。
「実は歩道橋から男が飛び降りた事故現場に、自分も居合わせていたんです。あなたのお友達があなたのことをそう呼んでいたので……」
村瀬の話を聞いて、女はさっきまでの不安そうな顔から、納得した表情へと変わった。
「そうだったんですね。私、上野里美って言います」
村瀬も簡単に自己紹介を済ませ、里美にこう言った。
「ずっと里美さんのことを捜していたんです」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます