第51話

「ありがとうございます」


村瀬は頭を下げた。


井上と共に出口に向かって歩き出す。


若い女とすれ違った。


村瀬はその女の顔に見覚えがあったが、誰なのかを思い出すことはできなかった。


「五十嵐さん!」


背後で女の声が聞こえた。


先ほどの刑事の知り合いなのだろうか……。


村瀬は立ち止まり、後ろを振り返った。


――どこで会っただろう……。仕事関係か、それとも……。


「あっ!」


村瀬は思わず大声を出していた。


踵(きびす)を返し、その女の元へと歩みよった。


「失礼ですが、あなたの下の名前は『里美』さんではないですか?」


女はきょとんと目をまんまるに開いて、五十嵐の顔と村瀬の顔を交互に見つめている。


「村瀬さん、彼女をご存じなんですか?」


五十嵐も驚いた様子で瞳を何度も瞬(しばた)いている。


「あ、あの……」


女は困ったような表情を浮かべ、首をかしげている。


「実は歩道橋から男が飛び降りた事故現場に、自分も居合わせていたんです。あなたのお友達があなたのことをそう呼んでいたので……」


村瀬の話を聞いて、女はさっきまでの不安そうな顔から、納得した表情へと変わった。


「そうだったんですね。私、上野里美って言います」


村瀬も簡単に自己紹介を済ませ、里美にこう言った。


「ずっと里美さんのことを捜していたんです」

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