第50話

横たわる女の遺体は、透きとおるような真っ白な肌をしていた。


山中から見つかったというニュースから、泥だらけの姿を想像していただけに、その綺麗さに驚いた。


絵理香ではなかったという安心とともに、新たな不安もこみあげてくる。


完全に振りだしに戻ってしまった。


携帯電話の手がかりも失い、焦る気持ちばかりが先行する。


それに、村瀬の目の前にいるこの女性……。


命尽きてしまった彼女は、何も語ることはできない。


家族の誰にも自分の死を知らせることもできぬまま、たった一人で最期の瞬間を迎えたのだろうか……。


絵理香もどこかで助けを求めているかもしれな

い……。


そう思うと、村瀬はいてもたってもいられない気分だった。


目の前で横たわる女性を見下ろし、彼女もまた、家族の元へと無事に帰れるように村瀬は祈った。


「そうですか……。妹さんではなかったですか」


刑事の男は、少しがっかりした様子で頭を撫でた。


遺体は再び大きな白い布に包まれた。


刑事がしていたように、村瀬も両手を合わせ部屋を出た。


井上は、まだ呆然としたままだった。


気が抜けたからだろうか、足もとがふらついている。


村瀬はその様子に驚いた。


どんな場面でも冷静に対応できる男だと思っていただけに、さっきの井上の姿は信じられなかった。


「それじゃ」


出口まで来ると、村瀬は刑事に向かって頭を下げた。


「こちらの方で何かわかればすぐにご連絡します。村瀬さんも何かあればすぐにいらしてください」


刑事はポケットから名刺を取り出した。


――五十嵐勝巳……。


警部であるこの男なら、力になってくれるかもしれない。


村瀬は五十嵐が差し出した名刺を、両手で受け取った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る