第48話
警察署の敷地内へ入ると、見慣れたRV車が止まっていた。
「井上! こんなとことで何してるんだ」
村瀬は慌てて運転席の窓側へと駆け寄った。
「さっき電話で言ってたことが気になって」
井上は、スーツ姿のままバツが悪そうに車から降りた。
「それはいいけど……。仕事はいいのか?」
「ちょうど外回りに行こうと思ってたところだったんだ。問題ないよ」
井上は、大手の車販売メーカーに務めていた。
販売ノルマが厳しいとよく嘆いていたが、村瀬から見ると井上はこの仕事がとても向いていると思えた。
人当たりの良さ、口の巧さ、頭の回転、これ以上セールスマンにもってこいの男はいない。
実際ノルマが大変だと口では言っておきながら、村瀬にセールストークをしてこないあたりを考えても、井上はそこそこ売り上げをあげていると思われた。
「来てくれて助かったよ。実は怖かったんだ……」
村瀬はたったひとりで絵理香の死を受け入れる自信がなかった。
井上が一緒なら心強い。
たとえ、身元不明の遺体が絵理香じゃないにしても、死体を見ることは決して気分のいいものではない。
「行こう」
村瀬は口の中にあふれた唾を飲み込むと、入口目指して歩き出す。
後ろを井上が続いた。
正面のカウンターを目指し、歩を進める。
井上が来てくれたおかけで、村瀬の心も少しは落ち着きを取り戻しつつあった。
「すみません、今日のニュースで見たんですが……」
村瀬は、警察の制服に身を包む20代半ばくらいの女性に声をかけた。
女性警官に、絵理香のイメージを重ね合わせてしまい、村瀬は涙があふれそうなのを必至でこらえた。
女性警官は書類をチェックした後、村瀬たちの視界から消えた。
井上を振り返ると、少し下がったところで俯いたまま、つま先を小刻みに揺らしていた。
彼もまた、落ち着かないのだろう。
女性警官が刑事らしき男と一緒に戻ってきた。
男はタバコの臭いが染みついた、シワシワのスーツを着ている。
「ご案内します」
村瀬と井上は、その男の後を続いた。
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