第46話
村瀬の目の前に、結婚式場のパンフレットがドンと置かれる。
「式場、どんなところがいいか目を通しておいてほしいの。人気のあるところで、いい日取りで挙げるとなると、2年以上も前から押さえておかなきゃならないみたい……」
「悪いんだけど、妹が見つかるまでは……」
「わかってる! でも、式はまだ先のこととは言え、準備は早めにしておかなきゃならないの。なにも絵理香さん捜しをやめてって言っているわけじゃないし、絵理香さんが見つかったら、すぐに式を挙げられるようにしておくのが理想かなって思って」
ふたりの間に、険悪な空気が流れた。
村瀬は亜矢に気がつかれないように、ため息をこぼした。
亜矢は無言のまま、部屋のそうじを始めた。
少しずつ、散らかっていた部屋が片付いていく。
それがかえって村瀬の居心地を悪くしていた。
『……の山中で、身元不明の女性の遺体が見つかりました。死後1週間から2週間前後経過しており、年齢は20歳から30歳とみられています。細めの女性で、髪の毛は長く、着衣に乱れはないということです。警察ではこの女性の身元を調べるとともに……』
テレビから不意に流れてきたニュースに、村瀬は飛びあがった。
心臓が握りつぶされたように痛み、毛穴からはいやな汗が染み出た。
絵理香かもしれないという絶望……。
どんな形であれ、絵理香を見つけ出したいと思っていた村瀬だったが、実際に絵理香が亡くなっているかもしれないという事実を突きつけられると、平常心でいることはできなかった。
――絵理香、生きていてくれ……。
村瀬は唇をかみしめる。
このニュースの女性は絵理香ではない。
頭でそう否定しても、不安な思いが渦巻き、村瀬を簡単に飲み込んでいく。
「確かめにいく」
村瀬はジャケットを羽織ると、亜矢を部屋に残したまま家を飛び出した。
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