第44話

栗原という男が落としたと思われるタオルが、マシンの間に落ちているのが目に入った。


丸山はそれに手を伸ばした。


かすかに携帯電話の着信音が聞こえた気がした。


それはこもった音をしていて、下のほうから聞こえている。


丸山は、落ちていたタオルを拾い上げた。


「これが鳴ってたのか……」


タオルの下に携帯電話があった。


丸山は携帯電話が鳴り止むのをじっと待った。


だが、それはいっこうに止まる気配がない。


丸山は少し迷ったが、栗原の携帯電話を手に取った。


他人の携帯電話に出ることは、躊躇われた。


面倒なことに巻き込まれるのはうざったいと思っていた。


だが、今の状況を電話をかけてきている相手に伝えた方がいいと丸山は考えた。


着信音はいまだ鳴り止まない。


丸山はゆっくりと携帯電話を開く。


そして着信ボタンを押して、耳に当てた。


「もしもし」


丸山は探るように小さな声を出した。


電話の相手は答えない。


ザーっとノイズのような音だけが、聞こえていた。


「……どこ?」


聞こえてきたのは、女の声だった。


「あ、ここはスポーツジムなんですが、こちらの携帯の持ち主の方が、急に倒れてしま……」


「……違う。また違う」


丸山の声を女が遮る。


「教えて。……どこ?」


女の声は、ノイズに混ざり合って聞き取りにくかった。


「探してよ……。私は……」


丸山は気味が悪くなり、そのまま電話を切ってしまった。


「さっきの電話は一体なんだったんだ」


これ以上、体を動かす気分になれなかった丸山は、タオルと携帯電話をカウンターに預けると、ロッカールームへと向った。


着替えを出そうとロッカーの扉を開けると、携帯電話が鳴っていた。


丸山は慌てて携帯電話を取り出した。


「教えて。……どこにいるの?」


不意に聞こえてきたのは、さっきの女の声だった。


「どうなってるんだ」


丸山は驚いて、携帯電話を落としそうになった。


「探してよ……。私は……あの……」


これ以上聞いてはいけない気がした。


恐ろしさに体がこわばる。


丸山は慌てて電話を切った。


「なんだよ……これ」


丸山の携帯電話には――。


設定した覚えのない、髪の長い女が映し出されていた。

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