第41話

「ここにはもういない……?」


里美は消え入りそうな声で、五十嵐に訪ねた。


浅沼でなければ、携帯彼女を止めることはできない。


「浅沼の事情聴取も今日で終わったんだが……」


そう言って、五十嵐は胸ポケットから1枚の封筒を取り出した。


「辞表? どうして五十嵐さんは止めなかったんですか? 黙ってそれを受け取ったんですか?」


里美はなかば突っかかるようにして、強い口調で質問した。


「違うんだ。今日、自分の引き出しの中にこれが入っていた。もちろん上に渡すつもりはない」


五十嵐の顔にも焦りの色が見られた。


「私、探します。まだ自宅にいるかもしれないし、それにいくつか心当たりもあります」


悦子は五十嵐に軽く頭を下げると、出口に向かって歩を進める。


「上野さん!」


それを五十嵐が止めた。


悦子が振り返る。


「上野さん、あなたはご自宅で待機していてもらえますか? 浅沼は我々で捜しますから。あなたと浅沼を会わせるわけにはいかない。言っている意味がわかりますよね?」


五十嵐は、遠まわしに悦子と浅沼がふたりきりで顔を合わすことを危惧する言い方をした。


ふたりを疑っているというよりも、同じ内容で事情聴取を受けていたふたりを合わせることは、常識から反しているからだろう。


里美にはそういう風に聞こえた。


「わかりました。でも、浅沼さんが見つかったら、すぐに連絡をください」


浅沼がコンピユーター上で操作し、悦子が霊道を塞ぐ。


ふたりの協力がなければ、携帯彼女を消すことはできない。


「もちろんです。その時はお願います」


五十嵐は悦子の肩をぽんと叩いた。


「それじゃ、私はこれで。里美、何かあったら電話してね。お母さん家で待ってるから」


悦子は心配そうな表情で里美を見つめている。


「大丈夫。きっとすぐに見つけられるから」


それは悦子に向けた言葉というよりも、里美が自分自身に向けて言った言葉だった。


悦子は五十嵐に深々と頭を下げると背を返し、出口に向かってゆっくりと歩き始めた。

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