第40話
警察署に着くまでの間、里美と悦子は一言も口を利かなかった。
お互い黙り込んだまま、早足で警察署を目指した。
「お母さんの取り調べを担当してくれた刑事さんのところへ行ってくるから、里美はここで待っていて」
悦子は警察署に入るなり、早口で里美にそう言った。
里美は無言で頷き、悦子の背中を見送った。
手持ち無沙汰になった里美は、裕之の携帯電話を取り出した。
画面には動かなくなった携帯彼女が映し出されている。
「浅沼さん、早く来て……」
里美は祈るような思いで、つぶやいた。
背後から慌ただしい足音が2つ重なって聞こえてきた。
「五十嵐さん!」
振りかえると、そこには五十嵐と悦子の姿があった。
「どうして連絡くれなかったんですか? 私、五十嵐さんからの電話を待っていたんですよ」
「え?」
五十嵐が戸惑った表情を浮かべた。
「もしかして、聞いてなかったんですか?」
里美はこの前の警官を思い浮かべた。
適当に応対されただけでなく、五十嵐にも伝えてくれてなかったとは思わなかった。
「それより、これ見てください」
里美は、手に持っていた携帯電話を五十嵐に渡した。
「っ、これは……」
五十嵐は大きく目を見開いて息を呑んだ。
「どうなってるんだ……。あの時、浅沼は降ろされた霊たちを元に戻したはずでは?」
五十嵐は悦子に詰め寄った。
「ぇえ……。私も驚いています。詳しい事情は浅沼さんに聞かなければわかりませんが、おそらく彼が元に戻したのは携帯彼氏だけだったんだと思います」
悦子の返答を聞き、五十嵐は拳を壁へと突き立てた。
その手は小刻みに震えていた。
「五十嵐さん、今すぐ浅沼さんをここへ呼んでください」
里美の声に、五十嵐は反応を示さない。
「五十嵐さん!」
「それはできない。浅沼は……、ここにはもういない」
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