第39話

偶然にも女性の霊をダウンロードしてしまったということではないのか。


「ここに降ろされてる霊は、ラブゲージ0になってる。赤外線もしないでこのままにしておくとどうなるの?」


里美は裕之の携帯電話を指差した。


「ゲージが0になってから49日間しか、携帯電話にとどまることはできない。49日が経過すると、降ろされた霊は元の場所へと帰っていくの……」


「しじゅうくにち……」


里美は声に出して呟いた。


人は死後、49日間魂が現世に留まり、その後成仏すると言われている。


いわば、現世とあの世の境目……。


ゲージがなくなった霊は49日間携帯電話に留まり、その後元の場所へと帰っていく。


そして、またダウンロードされるのを待つに違いない。


ラブゲージが100になるまで、成仏できるその時まで、未来永劫繰り返される……。


悦子の話から、裕之の携帯電話に降ろされた携帯彼女は、このままにしておいても何の危害も及ばないことがわかった。


だが、どれだけ携帯彼女が生み出されてしまっているのか把握はできない。


軽視してはいけない。


早く浅沼に除霊を頼まなければ、被害者はどんどん増えてしまう。


「行きましょう。警察署へ」


悦子が里美の手を引いた。


「これを見せれば、きっと浅沼さんと合わせてもらえる。五十嵐さんにも至急連絡を取ってもらえるかもしれないわ」


これまで浅沼のことを「有ちゃん」と呼んでいた悦子が、「浅沼さん」と言った。


このふたりは、もう関わり合ってはいけない。


あい・すくりーむ、過去に起きた殺人事件――。


もう二度と、呼び起こしてはいけないものを、このふたりは共有している。


里美は悦子が「浅沼さん」と呼んだことに、安堵した。


「わかった」


里美は裕之の携帯電話を自分のカバンにしまうと、悦子と共に家を出た。

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