第25話
【 絵理香さんのこと、何かわかりましたか?
うちの両親も心配しています。
このままだと結婚式の日取りは延期ってことになっちゃうのかな?
この前ドレスを見に行ったの。
試着させてもらって、写真も撮ってきました。
時間空いたら見てもらいたいので連絡ください 】
村瀬は、結婚式のことよりも絵理香のことで頭がいっぱいだった。
結婚式はいくらだって融通がきく。
だが、絵理香の場合はそうはいかない。
事件や事故の可能性がある以上、一刻の猶予もあるはずがなかった。
「ま、今はとにかく絵理香ちゃん探しだ!」
村瀬の曇った顔つきに気がついたのか、井上がさらりと話題を変えた。
それでも村瀬の気持ちは晴れなかった。
亜矢が送ってきた文面からは、絵理香を思う気持ちを読み取ることはできなかった。
「井上のとこは、たしか7ヶ月だったか?」
話が途切れたところで、村瀬は井上に質問した。
「もうすぐ父親になるっていうのに、全然実感がわかないんだよ。妻の方は、妊娠がわかった瞬間から母親になってたっていうのに」
井上は鼻の付け根にシワを寄せ、右手の人差し指で鼻のテッペンを掻いた。
「羨ましいな」
「そうか? 親になるにあたって、片付けておかなきゃいけないことが山積みだよ。これがけっこう大変なんだ」
大変といいながら、井上の表情はとても幸せそうに見えた。
「家族を守る義務が俺にはあるからな。責任重大だよ」
井上が照れくさそうにコーヒーを啜る。
家族を守る……。
村瀬は自分の非力さに腹が立った。
亡き父親に代わって、母親と絵理香を守っていかなくてはならない。
それなのに、何もできない自分が歯痒かった。
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