第24話

井上は腕組みをしたまま、唇を固く結んでいた。


しばらく黙りこんだあと、井上が口を開いた。


「俺も一緒に絵理香ちゃんを捜すよ」


「何言ってるんだよ! 今はそんなことしてる場合じゃないだろ。もうすぐ子供が生まれるんじゃないのか?」


「安定期に入ってるし、うちは大丈夫だよ。それより絵理香ちゃんの方が心配だ」


正直、井上の言葉は村瀬にとってはありがたかった。


絵理香を探せるのは自分しかいないと思っていても、実際なんの手がかりも見つけていない。


これまで追ってきた画面に映る絵理香の行方もわからなくなっている。


井上が絵理香探しを手伝ってくれるのなら、これほど心強く安心なことはない。


「本当にいいのか?」


村瀬は念を押すように井上に言った。


「あぁ。もちろんだ。一刻を争う事態になってるかもしれないだろ? やらせてくれ」


井上の心遣いに、村瀬は強く頷いた。


「まずはその携帯に関して調べてみるか……。知り合いに新聞社に勤めてる奴がいるんだ。そいつに澤田の事故について聞いてみるよ」


井上はコーヒーを啜りながら携帯電話の画面にメモを打ち込む。


「助かるよ。本当はどうしていいかわからなくて困ってたんだ」


「何言っているんだよ。それに、そんな顔するなよ。大丈夫、きっと無事に見つかるさ」


井上はやわらかい笑みを浮かべる。


「でも、もしかしたら絵理香はもう……」


「それはない。俺が断言する。兄貴のお前に何も言わずに……。そんなことあるはずないだろ」


井上は唇を小刻みに震わせた。


村瀬にとって、井上の慰めは救いだった。


「そうだ。婚約者の亜矢さんは? 絵理香ちゃんのこと心配してるだろ?」


「うん……まぁ」


村瀬は気のない声で返事をした。


絵理香のことにかかりっきりで、亜矢のことをほったらかしにしていた。


「なんだよ、それ」


「亜矢は自分の結婚のことを心配してるんじゃないかな」


村瀬は先日届いた亜矢からのメールを思い出して溜息を洩らした。

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