第22話

栗原はイラつきながら相手が答えるのを待った。


「……違う。また違う」


しばらく無音が続いたあと、電話の女は冷たく言った。


「おい! 違うって何だよ! 誰なんだよ!」


そこでプツリと電話は切れた。


栗原は寒気を覚えた。


女が発した「違う」という声色が、耳について離れなかった。


澤田の携帯電話を握ったまま、栗原は呆然としていた。


直後、栗原の携帯電話が鳴りだし、驚いた栗原の手から澤田の携帯が落ちた。


栗原は急いで自分の携帯電話を手に取った。


画面に表示されていた名前――。


「なんで澤田の携帯から!?」


栗原は小さな悲鳴を上げた。


体の底から這い上がってくる恐怖心を押し殺し、栗原は着信ボタンを押した。


恐る恐る携帯電話を耳にあてる。


「教えて。……どこ?」


聞こえてきた女の声に、栗原は思わず大声をあげていた。


「探してよ……。私は……」


栗原は急いで【切】ボタンを押した。


そこに――。


澤田の携帯画面に映っていたはずの女の姿があった。


「ぅうぅわぁあ」


思わず後ずさった足もとには、さっき落としてしまった澤田の携帯電話。


栗原はそれに手を伸ばす。


指先が激しく痙攣していた。


栗原は口のなかにあふれていた唾を飲み込むと、ゆっくりとした動きで澤田の携帯電話を拾い上げた。


「どういうことだよ……」


澤田の携帯電話から女の画像が消えていた。


改めて自分の携帯電話の待ち受けを確認する。


「ぃ……」


栗原の喉元から、奇妙な呼吸が漏れる。


女は、栗原の携帯電話の中で動いていた。


そして、栗原を上目づかいでじっと見つめている。


唇の端には笑みが浮かんでいた。


悪意を感じるその薄笑いに、栗原は急いで携帯電話の電源を切った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る