第19話

里美1人ではどうすることもできない。


それは、携帯彼氏の一件からしても明らかだった。


悦子と浅沼が戻ってくるまで手をこまねいていても、状況は悪くなる一方だ。


こうしている間にも、携帯彼女によって、新たな犠牲者が出ているかもしれない。


そう思うと、里美はいてもたってもいられなかった。


五十嵐からの連絡もまだない。


里美は下唇を噛みしめながら、歩道橋を見上げた。


つい先ほど、自分の手から離れていった携帯電話。


それを拾った人物を見つければ、1つ命は助かる。


今自分にできるのは、それしかないと思い立った里美は、歩道橋の上で携帯彼女がダウンロードされた携帯電話を拾った人物を探すことにした。


とは言え、あれだけの混雑で、誰が拾ったのか検討をつけることなど不可能だった。


それでも行動しないではいられなかった。


記憶を呼び戻す。


男の叫び声が聞こえた時、歩道橋の上には、まだ数えるくらいの人しかいなかった。


その中に、死んだ男の知り合いがいたとは考えられないだろうか。


知人がいたとすれば、その人物に携帯電話が渡っている可能性が一番高い。


里美は、先ほどの警察官に再び声をかけた。


「さっきここで事故に遭われた方、どこの病院に搬送されたかわかりますか?」


「光和総合病院が一番近いからそこなんじゃないの。あなた一体何なんですか」


「どうも」


そう言うと里美は足早にその場を離れた。


もし警察官がしつこく聞いてきたら、五十嵐の名前を出そうと考えていたが、それよりも里美の逃げ脚の方が早かった。


「光和病院……」


里美は祈るような思いでその名前を呟き続けた。

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