第18話

里美は再び事故現場である歩道橋へと戻った。


歩道橋には黄色いテープが張られ、上ることはできなかった。


事件の手がかりが残っていないか、里美は辺りを見て回った。


「さっきの携帯電話さえあれば……」


里美は、画面に映し出されていた携帯彼女の顔を思い浮かべた。


漆黒の長い髪。


ストレートの毛先は、画面に映りらないほど長かった。


色白の肌は、透き通ってしまいそうだった。


どこか物悲しそうな、冷たい表情。


思い出しただけで、里美は鳥肌がたった。


里美は近くにいた警察官に声をかけた。


「すみません。歩道橋の上に携帯電話落ちてませんでしたか?」


「携帯? ないね。落し物だったら、近くの交番で届けだしてください」


事件の処理が済んでいないからか、警察官は面倒くさそうに早口でそう言った。


「あ、あの……。事故だったんですか?」


里美の質問に、警察官が怪訝そうに見つめてくる。


「たまたま、事故が起きたとき歩道橋にいたので、気になっちゃって……。携帯もその時にたぶんなくしてしまったんだと思うんですけど……」


慌てて弁解する里美に、警察官はそういうことかというように大きく頷いた。


「とにかく、それは今調べているところですので。落し物はさっき言ったように近くの交番で……」


「ありがとうございました」


これ以上話しても、なんの情報も引き出せないと思った里美は、話の途中で頭を下げた。


死んだ男は、携帯彼女のラブゲージが0になったからに違いないと里美は確信していた。


つまり、あの携帯電話は死んだ男のものということになる。


「どこにいったんだろう……」


里美は目を凝らして辺りを見回した。


すでに誰かの手に渡ってしまった可能性が高い。


その人がもし、赤外線であの髪の長い『携帯彼女』を受信してしまったとしたら……。


そう考えただけで、里美はいてもたってもいられなかった。

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