第15話

「何もないよ。ただ、あの男の人の携帯かなって思って」


里美はなんとかその場を取り繕った。


「あの……男の人の」


現場の惨状を思い出したのか、由香が眉をひそめた。


「でもどうして? 歩道橋の上には、他にも人がいたのに」


由香の質問に、里美は曖昧に首を傾げた。


里美はこれ以上、詮索されたくなかった。


その思いに反し由香は続けた。


「何か見たの?」


由香の表情は怯えているように見えた。


携帯電話と死――。


決して結びつかない2つのキーワードは『携帯彼氏』によって繋がれていた。


「見てないよ。ただ……。ちょっと思い出しちゃったから……」


里美はそう言うと、由香から視線を逸らした。


「そっか。ならよかった。私、また何か良くないことが起きてるんじゃないかって思って、ちょっと怖かった」


由香がフーっと息を吐きだした。


「もう、終わったんだよ。『あい・すくりーむ』もなくなったし、携帯彼氏だってもうこの世には存在しないんだから」


里美の体は小刻みに震えていた。


それを由香に悟られまいと、必死で全身に力を込める。


終わった……はずだった。


『あい・すくりーむ』はもうない。


そして携帯彼氏は、母親の悦子と浅沼によって元に戻されたはずだ。


だからこそ、里美も由香もあの恐怖から解放され、いつもの生活に戻ることができた。


携帯サイト『あい・すくりーむ』には携帯彼女は準備中だと書いてあった。


それなのに、なぜそれが存在しているのか、里美にはわからなかった。

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