第10話

3人の死が、否応にも絵理香の死を連想させる。


村瀬はそれを拭い去るように首を左右に振り、両手で頬を3回叩いた。


里美という女さえ見つかれば……。


村瀬は人ごみの中へと視線を泳がせた。


救急車が到着し、澤田の遺体が搬送されていく。


それを見届けた野次馬たちが、各々ちりじりにその場を離れていった。


所詮、怖いもの見たさで集まってきた低俗な連中だ。


事故の悲惨さに目を側(そば)めるふりをして、実際は澤田の死体を興味深々眺めていたかっただけなのだろう。


次第に混雑が緩和されていく。


だが、残っている人の中に、里美と呼ばれた女の姿はなかった。


無駄だとわかっていたが、村瀬は澤田の携帯電話が落ちていないか辺りを見て回った。


だが、携帯電話を見つけることはできなかった。


村瀬は小さく舌打ちすると、欄干(らんかん)を右手で作った拳で殴りつけた。


「絵理香……」


絶望的なイメージが頭の中を支配した。


もう二度と、妹に会えないのではないか。


どうしてもっと絵理香のことを見ていてやらなかったのか。


今になってどんなに悔いてみても手遅れだった。


村瀬は自分の携帯電話をジーンズのポケットから取り出すと、アドレスから『エリカ』を選び、通話ボタンを押した。


「おかけになった電話は……」


溜息とともに、耳から離す。


このメッセージを聞くのはこれで何回目だろう。


未だ絵理香の携帯電話は繋がらない。


村瀬は重たい足取りのまま、絵理香のアパートへと足を向けた。

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